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2ターン目後手(第1ラウンド) 骨喰 ザクロ C4 渡良瀬 ヨミサ C4 ヴィヴ・ラ・ヴィータ C4 五士 オルガ C4 北内 花火 C4 クロちゃん C3 本気狩る刈ーる☆トメさん C4登場 名前 コメント 【探偵部】チーム名「怒りの湯けむり殺人事件」DP0 レーティング 名前 アビリティ 攻 防 体 精 FS 移 スタイル 発 成 備考 C マグ姉 - 16 0 8 6 0 2 Act 100 100 C 彩妃 言葉 - 0 15 9 5 1 2 Act 100 100 B 篠崎 志保 精 7 10 7 6 0 2 Pas/Pas 100/100 100/100 B ☆堅倉 碇 猟 20 2 7(5+2) 4(3+1) 0 2 Act 100 100 リーダー B 九ノ宮 紗々貴 逸 0 19 6 4 1 2 Act 99 100 A 湯ノ花 香里 - 0 14 11 5 0 2 Act 100 100 A 魔女っ子 - 20 0 7 3 0 2 Act 100 100 【風紀委員会】DP0 レーティング 名前 アビリティ 攻 防 体 精 FS 移 スタイル 発 成 備考 N ヴィヴ・ラ・ヴィータ 魅/猟 20 1 6 3 0 2 - N 五士 オルガ 慧/狙 11 0 6 3 0 2 - C 北内 花火 武 20 0 7 3 0 2 Pas 100 100 B ☆骨喰 ザクロ 猟 20(19+1) 4(3+1) 3 3 3(2+1) 2 Act 104 100 リーダー B 渡良瀬 ヨミサ 魅 0 0 5 5 20 2 Act 100 精神 B クロちゃん 精 0 0 10 5 15 2 Act/Act 100/100 100/100 A 本気狩る刈ーる☆トメさん 飛 3 2 2 3 0 4 Act 15 100
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誰も居ない。誰も居ない街。誰も居ない家。その前に、独りで立っている。 夕焼けが空を赤く染め、視界のすべてのものが紅のフィルターを通して見ているように赤い。何の変哲もない景色。よく見る景色。……本当に? もうしばらくで沈む太陽は赤い。確かに赤いけど……街を、こんなに赤くしてしまうっけ。 まるで赤いペンキをぶちまけたみたいに隅から隅まで一部の隙もなく、まんべんなく染まっている。いや、それよりも深くて暗い。夕日はこんな風に、こんなにも深く街を塗り潰すだろうか。 この赤は、もっと身近なものだ。この赤は夕日によるものなんかではない。答えは分からずともそれは理解した。 「なんか、変な感じがするな」 つぶやく自分の声はまるで洞窟の中のように反響し、消えていく。それを奇妙と思わない自分を奇妙に思う。まあ、どうでもいいか。なんだか、全部がどうでもいい。 ふと、物陰で何かが動いた気がした。なんだろう。誰もいないのに、なんで。……なんで、誰もいないって知ってるんだろう。いや、なんでもなにも、誰もいないんだから誰もいないに決まってるよな。 じゃあ、今見えたのはなんだろう。何が動いたんだろう。ちょっと気になるな。 ただの好奇心で物陰のほうへ足を向ける。何かいたならそれは確認しておきたいし、なにもいなければそれでよし。別に難しいことじゃない。 赤い道を黒い影を背負って歩く。雨でも降ったのか、道路は薄く赤い膜を張っている。歩くたびにぴちゃぴちゃといやに粘着質な音を鳴らし、水が跳ねる。 そこに何かが本当にいるなんて、そんなことはぜんぜん思っちゃいない。どうせ気のせいだろう。 そう思っていたから。 そこに『そいつ』がいるのを見て、俺は言葉を失った。 犬がいた。そこに犬がいた。猫でも猿でも羊でも狼でも鰐でもなく、犬がそこにたっていた。 ぎょろりとその眼球が動き、俺をじっと見ている。右の眼球で、じっと俺を見ている。左の眼球はすでにその機能を果たせる状態ではない。何しろ頭蓋が損傷しており眼球が零れ落ちているのだから。神経によってかろうじてつながったそれは、犬の呼吸に合わせてぷらぷらとゆれている。 それだけではない。脳もむき出しになり脳漿が零れ、ほほを伝って流れ落ちている。胴体も脇腹から腹にかけてがくりぬかれてきれいに抉り取られ、中身がこぼれてなりだらりとぶら下がっている。 そんな犬だった。死んでいる犬だった。死んでいる犬が動いている、ただそれだけの話だ。 なにも異常な話ではない。すべてが赤いこの異常な世界に、こんな異常なモノが生きていることに何の不思議があるというのだろう。 「――あ。う……あ」 しかし結論と感情は相反する反応を示す。恐怖、拒絶。目の前のモノを否定する感情に心が縛られる。 おかげで意味を成さない声が自分の口からもれたことに気づくのに数秒を要した。 だって、こんな。なんで、こんなもの。 わからない。自分が何におびえているのかがわからない。そのとき、犬が口を開いた。 「おい、お前」 聞き覚えのある声。いや、そんなもんじゃない。その声は。 「お前が俺のこと忘れちゃ、だめだろう?」 ――俺の声。 そうだ。ああその通りだ。俺がお前を忘れることはきっと許されない。奪われた者を奪った者が忘れるなど、傲岸不遜甚だしい。 奪った? 俺が? 何を? フラッシュする記憶が神経を焼く。 「うわああああああああああああああああ!!!!」 「お前が俺を、」 「ああああああああああああああああああ!!!!」 俺の悲鳴が、犬の言葉をかき消す。違う、俺の悲鳴で、犬の言葉をかき消す。 気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い! 何でこんなところに俺はいるんだ。思考が混乱し、視界歪み、意識が惑う。まともに立つことさえかなわなくなった俺はその場に崩れ落ち、地面に手をついた。 ぬるりとした感触。ああ、この感触は。この赤いものは。今まで目をそらしていたもの、気付かないふりを続けていたもの。この、鼻を突く独特のにおいに気付かないはずがなかったのだ。 喉からせり上げてくる嘔吐感をこらえることもできずに、胃が押し出したものをすべて吐き出す。吐き出したものもすべてが赤い。どろどろとしたよくわからない何かたちが、びちゃびちゃと不快な音を立てる。それをぬぐうこともせずに、俺は呆然と自分の両手を見る。 真っ赤に染まった両手。そこからたどって、腕、肩、そして、胸。 そこは――まるで、正面から何かの返り血を浴びたみたいに真っ赤に染まっていた。 世界が赤い。誰もいない世界が赤い。赤い世界には誰もいない。まるで赤いペンキを天空からぶちまけた様に深紅に染まった世界。 誰も居ないのは当たり前。 全部が赤いのも当たり前。 だって。 みんな。 この世界をその血で埋め尽くすくらいに、そのすべてを流しつくしてしまったのだから。 ここしばらくでは珍しいことに、目を覚ましたのは俺が一番最後だったらしい。 なにか嫌な夢を見ていた感覚だけは残っているんだけど、どんな夢だったのかはまったく覚えていない。それが逆に不気味だった。朝起きたときパジャマにべっとりとついていた汗。それがなぜか、とてもおぞましかった。 「ちょっと兄貴、入り口にぼけっと突っ立ってないで早く入りなよ。って、なにそれ、布団?」 食卓に座っている美羽が俺に気づいて、さらに俺が抱えているものにも気づいた。俺が持っているのは掛け布団だ。さて、どうしよう。もとより隠すつもりはないけど、いざ言うとなると気後れが。 それでも言わないわけにもいかないので、正直に布団を広げる。目の前に大きく広がった布団には、頭がすっぽり入るくらいの穴がきれいにあいていた。 いやー、実は寝てる間に魔法が出たらしくて、なんか穴が開いちまっててだな、その……どうしよう?」 「まあ……ずいぶんときれいに穴が開きましたね」 「切り口も見事なものだ。これがヒロト殿の魔法の効果なのか」 俺の魔法を始めてみるレンさんとユリアさんが感心している。いやあの、物的被害が出てるしあんまり感心する場面じゃないと思うよ? ところが肝心の美羽と美優からのリアクションがない。穴から顔を出してみる。 「「………………………………」」 無言。心なしか顔色が悪い。二人ともパンを口にくわえたまま固まってしまっている。いくらなんでも驚きすぎだ。 「えっと、お二人さん。なんか、予想してた反応とぜんぜん違うんだけど……大丈夫か?」 「え、あ、な、大丈夫よ、大丈夫に決まってんでしょ! ね、美優!」 「うん! だい、だいじょ、だいじょぶだよ!」 実に嘘が下手な姉妹だった。どうしよう、すごく気になるけど突っ込んだほうがいいのか。でもたぶん教えてくれないしなぁ。 「ちょっと兄貴、なにその哀れみのこもった視線は。なんか馬鹿にしてない?」 「いや、お兄ちゃんは妹たちが素直に育ってくれてうれしいよ、うんうん」 ……まあ、布団に穴あけたことを怒られなかっただけでもよしとするか。後で新しいのと変えておこう。 明らかに俺の言葉を信じていない姉妹の視線を華麗に受け流しながら朝食を食べた。 そえでも胸の中の不安は消えることはない。妹たちの顔にかかった影も同じく。そうして逃げて、いつものように流されている。じゃあ、その先にもしも逃げ道がなくなったら。流れる先がせき止められたら。その時俺は、どうなるのだろうか。 だーるーいー。授業に身が入らないー。現代国語ってー、だるー。 大体現代国語ってやるいみあんのか。小説の問題で『ここの主人公の気持ちを答えなさい』とか作者にしかわからないだろうに。読者はあくまで想像するだけなんだからそれを問題にするのはおかしくない? テレビでも小説家の先生が言ってたぞ。入試問題に自分の小説が使われてたけどぜんぜん違った解釈されててワロタって。なので現代国語はきゃぴきゃぴしたぎゃるとか夜のコンビニの前に集団でたまってる金髪のにーちゃんとかに正しい日本語を教えていればいいと思います。 「って言ったらなんかすごく怒られた」 「いやヒロ君、さすがにそれは怒られると思うよいくらなんでも。せめて小学生までに徹底的に教え込むとか、そういう未来のヴィジョンを見据えた意見を出すべきだったと陽菜は考えるね」 む、陽菜にしてはなかなか高度な意見じゃないか。だがしかし、仮に今教育制度が変わったとしてもそれが俺たちに適用されることはない。つまりどの道卒業まで現代国語という授業を受け続けなくてはならないのだ。 正直面倒なんだ。だって意味わかんないんだもん。 「ヒロ君そんなに現代国語苦手なの?」 「うんにゃ。むしろ点数だけ見たら得意な部類に入るかも。けどそれって本文の内容を読み解いてるっていうより、出題者側の意図を読んでるだけだしなぁ。あんまり面白くないぞ」 出題者と俺の意見が一致している場合はいいんだけど、たとえば俺の読み解き方と食い違った場合なんかすごく悲惨。だって選択問題とか、選択肢の中に答えがないんだもん。どうしろと。 「あの、お二人で何の話ですか?」 「ああ、さっきの授業でしこたま怒られたからその愚痴を。いまどき廊下に生徒を立たせる先生なんかいないってーの」 「い、いないんですか? でも、テレビにはよく出てきていますよ!?」 相変わらず順調にテレビの悪影響を受けている。むしろテレビだけじゃなくこっちの世界のメディア全般に耐性がなさ過ぎるともいえる。 「テレビと現実は別だからね。そんなテレビみたいにいきなりかわいい女の子と知り合ったり家に押しかけてきたりなんて話がそうそう……」 いや。 むちゃくちゃ心当たりがあるって言うか、実例が目の前にあるわ。どうしよう、なんかテレビって実は全部本当のこと流してたりするんだろうか。 いやまあ、そんなことになってたら世界中のでっかい湖には巨大生物がいて某国にはUFOがファンファンきちゃってて宇宙人未来人異世界人超能力者がいてオタクが世の中闊歩しちゃうからそれはないだろうけど。……最後のはあながち間違いでもないか? まあいいや。 「そんな怒られて廊下に立たされたヒロ君と、実はその前から廊下に立たされていた陽菜とでずっとぐちぐちしゃべっていたわけ」 「なるほど……廊下からたまに聞こえてきていた陽菜さんの叫び声はそういうことでしたか」 うぐっ、と陽菜が言葉を詰まらせる。陽菜はテンション高いからなぁ。こっそり話せと言ってもすぐに大声になる。おかげで10分たたされるだけのはずが授業が終わるまで延々と立たされる羽目になったわけだ。まあ反省せずしゃべり続けた俺も悪い。 「お二人とも、授業中なのにずいぶん楽しそうでしたものね。聞いているこちらも微笑ましくなるくらいでしたよ、ええ」 「え……あ、うん、そう?」 あれ……なんだろう。ユリアさんは笑顔なのに妙なプレッシャーを感じる。陽菜もそれを感じているのか、顔が引きつっている。お、おかしいな。そんなに怒るくらいうるさかったかな、俺たち? 「あのー、ユリアさん。つかぬことをお伺いしますが、私めは何かあなた様を怒らせるようなことをしましたでしょうか?」 「あらあら、ヒロトさんたら冗談が上手ですね。私がいつ起こったって言うんですかほら見てくださいよいつも通りの私じゃないですかそれなのに私のことが怒って見えるなんてそんなヒロトさんそうだ今から眼科か脳外科にでも参りましょうか」 ひいっ! な、なんかよくわかんないけど怖い! これ絶対怒ってる! 教室の中を視線を走らせ――いた。レンさん! 助けて!! しかしレンさんはどこか気まずい表情のままつい、と視線をそらした。あ、うそ、なにその知らん振り!? ずるくない? 大体あなた護衛でしょう姫様のそばにいつもいなくていいんですか!? (すぐに駆けつけられる場所にいるから平気だ! そ、それに常に私がそばにいては姫様もくつろげないだろう!!) そんなのいいわけだい! ユリアさんのそばに居るのが怖かったに決まってる! (な、なにを馬鹿なことを。この私が姫様を恐れることなんか、あ、ああああ、あるわけが、ななななな、ないだろう!) ほら今視線が泳いだ! 額から脂汗がだらだらと流れてるし、どう考えてもそれは嘘をついている汗だぜ! (ぬ、ぬぅぅぅ、だ、だがしかし、そもそも姫様がご機嫌を損なっているのはヒロト殿が原因であろう! もっと自覚を持て!) ええぇぇ。俺のせい? でも俺、何もしてないけど……。 ちょんちょん。 肩をたたかれる。なによ、今ちょっと重要な話し合いの途中で、 「ずいぶん熱心にレンと見詰め合っていましたがいったい何をなさっていたんですかヒロトさん目の前に私がいるのですからちゃんとこちらを向きましょうね」 「は、はい」 ぎりぎりと首の向きを固定される。これでレンさんとのアイコンタクト会議は強制終了となった。ていうかなんであんな鮮明にアイコンタクトで会話してるんだ、俺たちは。いつの間にか妙な特技に目覚めていたようだ。 そんな特技が必要な人生送りたくない……。 「あー、こほん。いいですかヒロトさん……その、えっと」 視線をあちらこちらに彷徨わせるユリアさん。あのー、まずこの姿勢といてもらえませんか。顔をつかまれて正面向かされているってことは、自然と顔と顔の距離が近づいちゃうんですけど。 今度は心なしか陽菜のしせんが突き刺さってる気がするし、周りの連中も何かを期待するようなまなざしをしている。お前ら、別に何もしないからわざわざ歩行速度を緩めてこっち見てないできりきり歩きなさい。 「あの、ヒロトさん……その、これからどうしましょう」 「いや、そこで俺に訊ねる、普通?」 ですよねー、なんて言って力ない笑顔を浮かべるユリアさん。なんかテンションおかしく見えるんだが、大丈夫か。しかも相変わらず俺の顔を固定する力が緩むことはない。完全拘束。 ……キスしたろか。いやしないけど。なに考えてる俺。自分の考えに自分で動揺してたらい見ないだろうが。そもそも冗談なんだし。 「あー、とりあえず俺としてはこの手を放してもらえると――」 ――ぞわり。 いつかと同じ、吐き気を催すほどの悪寒。全身を虫が這い回るような錯覚さえ起こす感覚。しかも近い! 「どこに――!?」 「きゃぁっ!?」 いる、の言葉が出る前に、廊下が立っていられないくらいに大きく揺れてバランスを崩した。倒れそうになるユリアさんを抱きとめ、壁に手をついて堪える。振動はすぐに収まった。廊下に立っていた生徒はほとんどが座り込んでいる。それだけの衝撃が走ったということだ。 窓に駆け寄って身を乗り出す。どこだ、今のはどこが揺れた? 視線をめぐらせて、煙を上げている区画を見つける。目を凝らす。爆発でも起こったのか、壁は崩れているらしいが煙でよく見えない。くそっ、これじゃあ本当にあいつなのかわからない! すぐにその場を離れ、まだ大半の生徒が呆然としている廊下を駆け出す。 「ヒロトさんっ、どうしたんですか!?」 「ユリアさんはそこにいて! みんなも教室から出るな!」 言葉だけを置き去りに、階段を飛び降りる勢いで下りていく。すれ違う生徒たちが驚愕の視線を向けてくるが気にしている余裕はない。もしもあいつが――ポーキァがこの原因なら、何も知らない誰かと鉢合わせてしまうのはまずい。あの狂気を秘めたガキがたまたま出会った相手に何もしないなんて楽観することの方が難しい! 現場に近づくほどに人が増えてきている。くそ、好奇心が殺すのは猫だけじゃないんだっての! 「邪魔だ、どけっ!!」 人ごみをかき分ける。さすがに危険だとわかっているのか、煙の向こうにまで行こうとしてる人はいなかった。俺はそいつらを尻目に立ち上る煙の中へと駆け込む。破壊された教室に踏み込むと、むわっとした熱気が襲ってきた。火災報知機やらはどうしたんだ? 幸い、炎の規模はそこまで大きいものじゃないらしい。このくらいなら、少しくらいならこの場にいられるか。ハンカチで口を覆い、煙を払いながら教室の中を見回す。 いや……いる。わかる。 「何の真似だクソガキ。物陰からこそこそ俺を狙おうってのか」 傾いた掃除用具入れが弾け、中からポーキァが現れた。相変わらず、むかつく笑顔を浮かべている。人の学校壊しておいて笑ってるとか。まあ見たところ人的被害が出てないのが唯一の救いか。だからといって感謝する気にはならないが。 「んで、何のようでこの学校に? ここはお前が来るにはまだ早いぞ、小僧」 「なんだよ、冷てぇなあ。それにしても俺がいるってこと、やっぱりわかるんだな、すごいじゃん」 人のことこっそり魔法で狙撃しようとしてなけりゃわかんなかったよ、とは教えてやらない。あいつの右手はまだバチバチと危険な音を立てている。この状況でポーキァが俺を狙うのが早いか俺が隠れるのが早いかを試すような物好きな神経はしていない。 「そんなことはどうでもいいだろ。んで、まさか遊びに来たわけじゃないよな。目的は前も言っていた、お姫様ってやつか?」 俺がユリアさんのことを知っていることは言わない。今校内にユリアさんがいる事を考えると、こいつには早々に引き取ってもらったほうがいいだろう。 ポーキァは俺の後ろをきょろきょろ見ている。何を探している? 「あのさあ、サフィールのヤツいねえのか? あいつにヒメサマのこと聞きたかったんだけど」 「しらねーよ、あんな貧弱野郎。どうせさっきの衝撃でこけて頭打って気絶してんじゃねーのか」 「ひゃはははっ! ああ、それは確かにありそうだな!」 腹を抱えて笑うポーキァ。けど、油断できない。相変わらず雷をまとっていることに変わりはないのだから。 無駄話に興味はない。俺もこいつから情報を仕入れなくてはいけないのだ。そのためには――多少、危ない橋を渡る必要があるか。 「おいポーキァ、せっかくだし俺はお前に聞きたいことがあったんだが、聞いてもらってもいいか」 「ああ? 別にかまわねえけど、面白くもないこと聞きやがったら灰にするぜ?」 「やれるもんならやってみろ」 挑発的にポーキァの眼光を正面から受け止める。ふざけた態度とは裏腹に、その瞳には何かしらの覚悟が、強い決意が窺い知れた。 だけど、俺にだって退くわけにはいかない理由がある。お前なんかにまけてらんねんだよ。 「お前、仲間がいるのか。今世界中のコミューンが魔法使いに攻撃されている。それも、そこを襲う奴らはたった一人でコミューンを制圧してしまってるらしい。通常魔法の使い手が、な。んで、お前はその中の一人なのか?」 「あれ、俺達のことそんなに広がってんの? なわけないよなあ、あんたもしかして、結構俺らと同じタイプの人間なわけ?」 人から教えてもらっただけだっつーの。まあ、その人は裏で何やってんだかよくわからない人なんだけど。もしかしたら正義の味方みたいなことをしていても俺は一向に驚かないな。 「知るかよ。とにかく、お前らはその連中の仲間って事でいいんだな」 「仲間ってのも微妙だなぁ。俺らの目的はみんなバラバラだからな。そのためにてにいれねーといけない手段が同じだから協力してんだよ」 「その手段っていうのが、この世界をぶち壊すこととなにか関係があるのか?」 その質問にポーキァは邪悪に顔をゆがめる。その嗤った顔はむかつくからやめろ。 「そうだなぁ、まあなんつーか、目的を達成する手段のためにこの世界が壊れるっていうだけの話だな」 だけってなんだ、だけって。ここで生きている俺たちからしたら迷惑千万だぞ。 だからといって他所でやれというわけでもない。そもそも、そんな厄介なことを始める思考が俺には理解できない。 「じゃあなにか、お前らそのためにお姫様が必要だってのか」 「そーなるね。オニーサン、頭いいじゃねえか」 うるせえよ黙れって、俺は今考え事で忙しいんだよ。 とにかくこのポーキァは単独で街ひとつつぶせるような化け物軍団の中の一人で、そいつらはこの世界を崩壊させるつもりだ、と。さらに言えば、この世界の崩壊はこいつらの目的のための手段を手に入れる過程で壊れてしまう。つまり、こいつらが、この世界の崩壊の原因か。 ……てことは、だ。こいつらはユリアさんに接触しようとしている。それだけならこいつらからユリアさんを守るだけでいいけど、このまま調査が進んで世界崩壊の原因がこいつらにあるとユリアさんが知ったら……間違いなく、あの人はこいつらを止めようとするだろう。 危険、だろうな。こいつらがなぜユリアさんを求めるのかはわからないが、まっとうな理由じゃないことだけは予想がつく。そんな奴らにユリアさんを渡すわけにはいかないし、接触させる事すら危険すぎる。こいつらの目的のためか手段を得るためかは知らないが、いずれにせよ彼女を危険に晒すことには違いがない。 よし、決まった。 つまりは俺がこいつら全員をぶっ潰せばいいんだな。そうすればユリアさん達は調査だけに専念できるし危険もなくなる。俺は調査には参加しないしこれは調査とは別口なんだから、彼女らに怒られる心配もない。 そら、万事解決だ。 「んっんー? なーんかオニーサン、目つきが変わったねぇ……それはあれだ、敵を見る目だ」 「残念、俺が敵にしていいのはひとりだけって決まってるんだ。お前ら全員まとめてじゃあ定員オーバー。けどまあこの世界を壊されたら俺らが生きてけないだろうが。だったらお前らはこの世界全体の敵だ」 「そりゃーそうだけど、なーんかオニーサンの場合は違う気がすんだよなー。まぁいいか。じゃああんた、俺達の敵になるんだな」 それが一番正しい表現だろう。俺の敵がポーキァたちというよりはポーキァたちの敵が俺を含んだ世界全体というべきか。もっとも、こいつらのばかげた力に対して敵足りえる実力がこの世界にあるのかは俺の知るところではないが。 炎がちらちらと揺れる中、俺達は無言でたがいを睨む。ポーキァの放つ雷が右腕から全身へとその体を覆っていく。緊張が高まり、音がなくなる。 が、そこでポーキァが緊張を解き雷を開放した。なんだ、どうしたんだ? 突然の無防備な姿に戸惑ってしまう。 「なあ、オニーサン。よくよく考えたらさあ、俺あんたとまともに戦う理由がねえんだよ」 「お前になくても俺には十分あるわけだが」 「そりゃそうだけどさあ、俺前回派手に暴れたから怒られてんだよね。今回のこれも、サフィールのヤツをおびき出すためだったのにあんたがきちゃうし。もう俺としてはさっさと引き上げて――」 「ユリアさんの居場所を教えてやろうか。誰がこの世界でかくまっているのか」 ポーキァの表情がすとんと抜け落ちる。次いで、裂けんばかりに口が開かれる。眼は釣りあがり鋭い眼光が俺を射抜く。 「あっはっはっはっは! 知ってんだ、知ってたんだ! 俺ずっとだまされてたんだ!」 「それが何か問題でも?」 「あーもう、アンタムカつく。おっけー、じゃあアンタは俺をぶったおしたくて俺はアンタを締め上げる、わかりやすくて助かるぜ」 ああくそ、怖いな。自分をすぐにでも殺せる相手が目の前にいて、殺意を持って見られるだけでこんなに怖いのか。 自分の口が引きつったような笑顔を浮かべるのがわかる。不自然に見えない程度に速やかにポーキァに背を向ける。もう表情を取り繕っているのも限界だ。 「今夜――また学校に来い。俺がお前を迎え撃ち、お前が全力で俺を狩る。相手をツブせばそいつの勝ちだ」 「面白そうなゲームじゃん。いいぜ乗った、今夜だな? けど、俺にはアンタ以外にも手がかりはあるんだ。殺してしまっても文句は言わないでくれよ」 「安心しろ。俺だってお前に手加減する理由なんかないんだから」 そりゃそうだ。と心のそこから愉快だといわんばかりに笑い、ポーキァ一瞬でどこかへと消え去ってしまった。俺はその場で立ち尽くす。全身を流れる汗は、熱に当てられたものだけじゃないだろう。 さあ。これで、覚悟を決める必要が出てきた。まずは、対策を練らないといけない。ヤツの力を封じ、ヤツを捕らえる策を。 話を聞いた乃愛さんは、あきれたという代わりに盛大なため息をついた。 「それでヒロト君は、この学校を戦場にするつもりかい?」 「ほかに俺が指定できる場所がなかったんですよ。それに、あのままポーキァをほっておくわけにもいかないじゃないですか」 乃愛さんも相手が貴重な情報源だということはわかっているが、それ以上に危険だということを考えているんだろう。当然だ、俺だってユリアさんが関わっていなければあんなやつとやり合うなんて御免だしな。 「それで、君が勝つために私にやってもらいたいことはたったのそれだけ、なのかな?」 「はい、それだけです。ただ一言付け加えさせてもらうと、勝つためじゃなくて……」 「負けないため、か。君は正直だな。ポーキァには相手を叩き潰すみたいなことを言っておきながら、本心ではそんなことを考えていない。ポーキァが姫やミウたちに近づかなければそれでよし、か」 乃愛さんの言うとおりだった。俺の力でポーキァを倒すことは難しいだろうし……それ以前に、たとえどれだけ危険な人間だからといって俺にそれを殺せるのかというと疑問だった。そんな迷いを抱えるくらいなら最初から殺すなんて選択肢は消しておくに限る。 とにかくあいつを俺に釘付けにし、他にかまっている余裕を無くす。可能であれば捕らえてしまうのが上策だ。その後のことはこの人に任せてしまえばいい。なんとも、汚い考え方だと思うけど。俺は結局自分の周りのことくらいしか考えられないのだ。 「そんなわけで、しばらくはユリアさんの周りに気を配ってください。それと、エーデルのヤツも今日はどっか別のところにおいてもらえませんか、邪魔です」 「やれやれ。ほかの手助けもいらないか。別に姫の警護を少しぐらい回すことはできるし、他から増援を呼んでもいいのだよ? いやむしろそうするのが当然だと私は考えるが」 乃愛さんの言葉はもっともだが、それじゃあ意味がない。 「そんなことしたら学校で本格的に大規模な戦いをしなくちゃいけなくなるじゃないですか。明日終業式なんですから、せめて明日までは最低限の形を保っておいてもらわないと」 それが俺の考えだった。夏休みに入ってから壊れるのならまあまだいい。業者を呼んでその手の魔法使いを呼べば、新学期までには直るだろう。だが夏休みに入るのは明後日からだ。明日までは学校がその形を持っていてもらわないと、ユリアさんたちの日常が壊れる。 世界崩壊の調査なんてしている段階で半壊状態なんだから、これ以上壊すわけにもいかないだろう。 俺は、彼女や妹達の日常を守らないといけないんだから。これから先の日常を守るために戦っている彼女達のために、俺は今の日常を守らないといけない。そのためになら俺はいくらでも、非日常に踏み込む。その上で、いつも通りに過ごしてみせる。 それが、乃愛さんや陽菜と話をしたことで俺が決めたことだった。 「まったく……つくづく、どうして君がこれほどまでに私に似て育ったのかと疑問でならないよ」 「まあ、乃愛さんにはずいぶん長い間世話になってますし、その影響とかじゃないですか?」 「それはないだろうな。ま、そんな話は今はどうでもいいことだ。とにかく君は、今日一日を無事に乗り切ることを考えたまえ」 確かにそうだな。明日を迎えるために、今日を乗り切らないといけない。 あの雷小僧を踏み越えないと。 大翔が出て行った職員室。すでに他の教員は姿を消し、彼女一人だ。 さてと乃愛は考える。大翔の言うことはもっともだがこの世界を守るために走り回っている自分としてはこれだけで良いとは到底思わない。しかしながら彼女にとって大翔からの助力の申し出というものは特別な意味を持っているのだ。 つまるところ、彼の申し出を実行しつつ、彼の戦力を増強しなくてはならないということになる。 大翔の申し出をまとめると、三つだ。 ひとつ、結城家近辺の警護を強化すること。 ひとつ、今夜学校に残るであろう人物に退去の命令を出すこと。 ひとつ、明日まで学校の形状を最低限維持していること。 「そうなってくると……まあ、私の言うことに耳を貸さない人物をけしかけるのが得策か」 幸い彼を気に入っている人物でこういうことが大好物の人物には昨日の時点である程度の事情を話してある。そのほかにも『彼女』もいてくれれば心強いだろう。大翔の望む状況とは違ったものになるだろうが、彼女とて学校の関係者全員に自分の言うことを言い聞かせることができるわけではないのだ。 その分、自分が大翔の家に行けば万全とは行かなくともおよそポーキァ程度なら取り押さえられる。それだけの実力者と布陣を備えているのだ。 「問題は、あの家の住人を相手にどれだけ私の嘘が通用するか、ということだな。まったくヒロト君も面倒な事を頼んでくれたものだ」 苦笑する。あの家に揃っているのは大切なものを一度ならず数度失った者達だ。それだけに、そういった気配に関しては特に敏感なところがある。大翔が向かうのは間違いなく死地だ。それを送り出した自分に対して後ろめたさがないはずもない。さて、それを悟られた時に自分が口を割らずにいられるかどうか。それ以前に、大翔が夜に帰らなければ不審に思うだろう。 「ミユを誤魔化しきる事ができれば、事は成したも同然なのだがねぇ」 乃愛も美優の深い過去までは知らない。だが深い喪失と後悔がそこにあることは何となく察している。 「ま、なるようになるしかないのかもしれないね」 立ち上がり、夕日に染まる職員室を後にする。 今夜がひとつの山場になるだろう。そこでどのような事が起こるか次第で、あるいはこの世界の運命、ひいては乃愛自身のこれからさえも左右することになり得る。 ――どくん。 視界が、脈打つように歪んだ。 「?」 眉間を指で押さえる。が、もうその現象は起きない。 首を軽く傾げた。 何か。 嫌なものが、自分の中にいるような感覚を覚えたのだが。
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オルガンティノ-伝道- 8MAX 8558/10356/9738 -- 申し訳ないが、今更でもあるけど一進と二進の画像をお願いしたい。 --
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男性キャラクター アイゼン=クラフト イリュウ=サイトウ ウルティマ・マスク エドワード=スマイル オルガ=アンドラス
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元スレURL ダイヤ「さあ、10万円を集めますわよ」 概要 給付金を一人使い込んでしまった善子は… タグ ^津島善子 ^Aqours 名前 コメント
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この島に連れて来られた参加者達は殺し合いを強要されている。 バトルロワイアルにおいて殺し合いを拒絶し脱出を図る参加者もいれば 生き残りたいがために他者の命を奪おうと動く者だっている。 「やれやれ……こいつはヘヴィだぜ……」 現在、参加者の一人であるディアッカ・エルスマンは 他の参加者による襲撃を受けており、苦戦を強いられていた。 好戦的な参加者との遭遇を考慮に入れていなかった訳では無い。 ただ彼が予想していなかったのは―― 「いきなり三人がかりは反則だろ!」 襲って来た参加者が三人組だったことだ。 「そらぁぁぁぁぁ!!滅殺ッ!!」 襲撃者の一人である紫色の肌をした大男の怪物がディアッカに向けて鉄球を飛ばす。 てっきゅうまじんと呼ばれるモンスターの攻撃に対し ディアッカは後方にステップして回避するも束の間 遠距離から放たれた砲撃の雨がディアッカを襲う 「オラオラオラァ!!」 二人目の襲撃者である砲撃手は緑色の装甲に覆われ、遠距離に特化した重戦車のような仮面ライダー、ゾルダである。 ゾルダは両肩に装着された大砲でドカドカと撃ち続ける。 「はぁぁぁぁ!」 三人目の襲撃者が真紅の鎌を振るい、ディアッカに斬りかかる。 ヘッドフォンを付けたセミロングの少女、中野三玖は本来の人格なら決して見せないであろう 狂気を宿した表情を浮かべながらディアッカを睨みつけた。 襲撃者達の人格はオルガ・サブナック、クロト・ブエル、シャニ・アンドラスの三名であり 地球連合軍が作り出した強化人間、ブーステッドマンであった。 薬物投与や洗脳によって歪められた彼らは、このバトルロワイアルにおいても 一切躊躇する事無く、殺戮を楽しんでいた。 「ちっ、お前らの好き勝手させるかよ!」 幸いにしてディアッカに与えられた肉体は以前と殆ど同じ容姿で尚且つ、非常に身体能力が高い。 三人からの攻撃も致命傷を負う事無く、回避する事が出来た。 ディアッカは懐から拳銃を取り出すと目の前にいる少女に向かって引き金を引いた。 「可愛い子ちゃんを傷付けたくはないが撃たせてもらうぜ」 三発の銃弾が三久もといシャニに向かって放たれる。 軍人として訓練を積んできたディアッカは狙いを外さない、だが…… 「効かないよ」 目に見えない何かによって銃弾は弾かれ、シャニの体を傷付けるには至らなかった。 「バリア……だと……?」 「やぁぁぁぁ!!必殺ッ!!」 「ぐぅっ!」 一番弱そうな相手を狙い、敵の数を減らす算段だったが上手く行かず 逆に隙を付かれ背後からクロトの鉄球の直撃を許してしまう。 怯んだディアッカにトドメを刺そうとしたその時、クロトに向かって砲弾が撃ち込まれた。 「オルガッ!てめえ!!」 「シャニ!てめえもウゼェ!」 「いって……」 今度はシャニに向かって砲弾を撃ち込むオルガ。 バリアによってダメージを無効化したシャニだったが 衝撃は殺しきれず、ふらついてペタンと尻もちをつく。 「おいおい仲間割れかよ、だがこっちに取って都合がいいぜ。あばよ!」 「あ、てめえ!逃げんじゃねえ!」 己の持つ脚力を最大まで駆使し全力でディアッカは逃走する。 クロトも追撃するが距離はドンドン離れ、完全に振り切る事に成功した。 「何とか助かったな……それにしてもあいつらの戦い方、見覚えがあるぜ。まさか……」 地球連合との戦いで何度か戦った三人組と酷似していた。 三人とも戦場で死亡したはずだ。 もしや主催者によって蘇生されたのか。 「……それが事実だとしたら相当厄介だぜ」 彼らの強さは嫌というほど体験している。 今度は勝てるかどうか分からない。 この殺し合い、一筋縄では行かない事を実感したディアッカであった。 【ディアッカ・エルスマン@機動戦士ガンダムSEED】 [身体]:エミヤ@Fate/stay night [状態]:ダメージ(小) [装備]:ベレッタ92(12/15発) [道具]:基本支給品、予備弾数(30/30)、ランダム支給品0~2 [思考・状況]基本方針:殺し合いからの脱出。 1:同じ目的を持つ仲間を探す。 2:連合トリオを警戒する。 [備考] 本編終了後からの参戦です。 ♢ 「お前が邪魔するから逃げられたじゃねーか!バーカッ!!」 「うっせーよ!そんな所でちょろちょろするから悪いんだろうがッ!」 「…………」 その頃、クロトとオルガは獲物が逃げられた原因をめぐって言い争いをしていた。 シャニはそんな二人を無視してヘッドホンを付けて音楽を聴いていた。 「おい、シャニ!お前は何か言う事無いのか?」 「……疲れた」 「ハァッ!?」 「休む」 現在のシャニの肉体となっている中野 三玖は運動が苦手で体力が低い。 その影響を受けてシャニもすぐにスタミナ切れを起こし、休憩を取っていた。 「だったら俺も休むぜ」 オルガの肉体である北岡秀一も三久程では無いが身体能力が高い訳では無く。 多少なり戦闘後の疲労は残っていた。 不思議と声は依然と全く同じである。 「お前ら貧弱過ぎ~」 「うっせーよ!こっちはお前みたいな化け物の体じゃねーんだよ!」 クロトだけは二人とは違い、てっきゅうまじんという強靭な肉体によって 全く疲れを見せる事無く、ピンピンとしていた。 「だったらお前達はそこで寝ていな。こっからは僕一人でやらせてもらうからね」 「おい、何を勝手に……」 「どーでもいいよ。好きにやろうぜ」 「ですね。ここには煩いのがいないし」 アズラエルの支配から解き放たれた以上、命令する奴はもういない。 首輪を付けられ、殺し合いを強要されてるとはいえ 誰とどんな戦いをしようと一切縛られないこの環境は 以前よりも遥かに自由となっている。 「まぁいいか。死にそうになったら戻って来いよ」 「僕がそんなヘマするかよ。じゃあな!」 戦闘への欲求を押さえ切れないクロトは颯爽と駆け出した。 強襲者は次なる獲物を見つけるまで止まらない。 【オルガ・サブナック@機動戦士ガンダムSEED】 [身体]:北岡秀一@仮面ライダー龍騎 [状態]:疲労(小) [装備]:仮面ライダーゾルダのデッキ@仮面ライダー龍騎 [道具]:基本支給品、ランダム支給品0~2 [思考・状況]基本方針:殺戮を愉しむ。 1:他の参加者を皆殺しにする。 2:休憩を終えたら再び行動を起こす。 [備考] 参戦時期はオーブ解放作戦前からです。 【クロト・ブエル@機動戦士ガンダムSEED】 [身体]:てっきゅうまじん@ドラゴンクエストシリーズ [状態]:健康 [装備]:てっきゅうまじんの鉄球@ドラゴンクエストシリーズ [道具]:基本支給品、ランダム支給品0~2 [思考・状況]基本方針:殺戮を愉しむ。 1:他の参加者を皆殺しにする。 2:獲物を探す。 [備考] 参戦時期はオーブ解放作戦前からです。 【シャニ・アンドラス@機動戦士ガンダムSEED】 [身体]:中野三玖@五等分の花嫁 [状態]:疲労(中) [装備]:クレセント・ローズ@RWBY、小型ディストーションフィールド発生装置@機動戦艦ナデシコ -The prince of darkness- [道具]:基本支給品、中野三玖のヘッドホン@五等分の花嫁 [思考・状況]基本方針:殺戮を愉しむ。 1:他の参加者を皆殺しにする。 2:休憩を終えたら再び行動を起こす。 [備考] 参戦時期はオーブ解放作戦前からです。 46 その炎、消しがたく 投下順に読む 48 そろそろ行こうか冥府魔道
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だめだ。もう力が…クロト。よく俺と肩を貸して艦まで帰ってきてくれた。 シャニはどこにいるか分からないが、きっと無事に帰ってくるだろう。オルガもスティングも… みんな記憶がぶっ飛ぶほどの一日だったに違いない。 嗚呼。冬の空は星がきれいだ 冷たい黒の世界を現すように… 『6馬鹿の合コンでゴー』 ~それでは参りましょう。フード・ファイト…レディー…GOーー!!!~ オルガ「はっくしょん」 アサギ「あれ~?風邪引いちゃった?」 マユラ「おいしいもの食べて、運動すれば治るよ」 ステラ「大食いチャレンジ…中華10人前。30分以内に食べきれればタダ…だって」 シン「絶対嫌だ!!!!」 ミーア「あ、ウェイターさん。えーと、ホットコーヒー6個と、デラックスチョコパフェ6個」 ルナマリア「それと、ここの男6人に大食いチャレンジを」 ウェイター「かしこまりました。少々お待ちください」 スティング「待て!!こら。やめろ!!!」 ジュリ「もう取り消しは効かないわよ。…ふっふっふっふっ…」 ウェイター「お待たせいたしました」 餃子、焼売、ラーメン、炒飯、チンジャオロース、ホイコーロー、酢豚、エビチリ、中華スープ杏仁豆腐。 それぞれ1人前ずつが次々と置かれていく… アウル「ねぇ。餃子って、いつも出てくる皿で1人前じゃないの?」 アサギ「ちがうよ~。…凄い量だね。頑張って!!」 ウェイター「では始めます…スタート!!」 シャニ「……気合いダー!!!!!」 クロト「……うわぁーーー!!!限・食!!!!!!!」 アウル「……ちぃ。なんだってんだよーー!!!!!!」 40分後… ルナマリア「ふーん。みんな無理だったか。じゃあ、腹ごなしに運動しましょう」 ステラ「うん。ほら、行くよ」 男×6「すみません。動けません。はらいたいです…勘弁して」
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こうして2人のお供を連れたシャニ太郎はオーブのマスドライバーをパクった盟主のカードで借りて宇宙へ飛び出しました 宇宙を飛び出してしばらくするとオルガが救命ポッドを見つけて回収してきました 中には世間知らずそうな女の子が乗っていました フレイ「なによあんた達!」 シャニ「お前艦長な」 納得いかないフレイを仲間にし、ついに鬼の住んでいる月に到着しました 「おいでませファントムペイン」と書かれた看板をローエングリンで吹き飛ばしながら鬼のアジトに進入していきます 慌てた鬼達はウィンダムを防衛に向かわせますがシャニ太郎達のバンクを駆使した戦いでどんどん倒されていきます そして交渉の為に鬼のボスが出てきました ジブリ「お前達なにが望みだ!」 オルガ「あん?うっせーんだよお前!」 ジブリ「お・・落ち着け・・どうだ、ここにある財宝を半分やるから帰ってくれないか?」 それを聞いたシャニ太郎は シャニ「あん?全部よこせよ」 かなり無茶な注文をしました ジブリ「ちょ、調子に乗りおって!ネオやってしまえこんな奴ら!」 ネオ「出番だお前達!」 アウル「まーってましたぁ!いくぜぇ!」 オクレ「はぁ・・なんで俺がこんな事を・・・」 アウル「あれ、ステラは?」 ステラ「うぇーいしゅつげきー!!」 そこに現れたのはシマシマにカラーリングされたデストロイとアフロになったステラだった アウル「なにお前そのかっこばっかじゃねえの?」 ステラ「ネオが鬼っていったら高木ブーとアフロだっていってた・・・」 アウル「古いんだよネオ!誰もわかんねーよ!!」 お前わかってんじゃねーかとスティングは突っ込もうとしたが後々面倒なのでやめておいた ネオ「カミナリ様のよさがわからないとは・・まぁいい戦闘開始だ!!」
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守りたいものというものがある人は幸せで、それを守り続けられたのなら、それはきっとこの上ない幸運だと、沙良は考えている。 「か……はっ、はっ、はっ」 震える手で壁を支えに立ちながら、荒い息とかすむ意識の向こうでふと昔を思い出す。 守りたい命があって、守れなかった自分がいたこと。絶望は泥沼のように深く、這い上がることは苦痛を伴った。それでも自分はこうしてここにいる。今度こそ守ると誓ってここにいる。 「やったら……諦めるわけには、いかんよなぁ、ましゅまろ?」 もう何年も共に過ごしてきた相棒を見つめる。しかしその姿はいつものように柔らかそうな印象はなく、くたりとくたびれていた。 ましゅまろはただのぬいぐるみだ。他のぬいぐるみと違う点は、沙良の感情に呼応した動作をするようにパターンをひたすらに学習させたという点だった。 ましゅまろの中には水が詰まっている。正確には、水の通るチューブが筋繊維のように張り巡らされている。その中を流れる水の動きによって、ましゅまろは多彩な動きをするのだ。 その水の流れを、沙良は常に操ってきた。いまや意識せずともましゅまろは操れる……というより、半ば彼女の意志を離れて動き出す。もしかしたら何かの意志が生まれているのかもしれない。それを確かめる術はないが。 そんなましゅまろも、結局は彼女の力が尽きれば動かなくなる。もはや沙良に残された力は、微かなものだった。 「ったく、しぶといわね、あんたも。そんなナリの癖して」 「こんなナリで、悪かったなぁ。うちだって好き好んでこんなんちゃうんや。成長なんて、人それぞれや……と」 ふらつくが、壁から手を離す。両足で立っていないと、いざという時に動きだしが遅れてしまう。 成長、か。小さくつぶやく。 本当は、沙良の体格は人の成長の差だとか言うものではない。実際、昔はまだ年相応の体つきをしていた。 「行くで?」 「何度でも、かかってきな」 ざぁっ! 沙良が動き、その後を追うように水が割れる。人の目には追えない速度。だが―― 「くはっ!?」 ガザベラの体を囲むように、細い針が無数に発生した。人の目に追えない速さも、人ではないバケモノならば追える。 闇の針は次々と沙良の体に突き刺さる。そして針はケモノのように、獰猛に沙良の肉体を食み、血を啜る。 「う、ああぁぁぁっ!!」 その口から悲鳴と共に血が零れた。ついに膝から力が抜け、沙良は崩れ落ちた。 ――あかんわ……もう、力が入らん。 意識は朦朧とし、もはや『流理』を扱う力も残ってはいなかった。 「まあ実際、たいしたものだったけどねぇ。でもここまで、アタシを倒すには、あんたじゃ役不足って事さ。にしてもその疲労の仕方はちょっとおかしいねぇ、ま、大方例の高速移動が体に負担をかけてたって事かしら?」 沙良は答えない。答える体力も、もはや残ってはいない。 ガザベラの言葉は正しかった。沙良の高速移動の正体――というより、肉体強化の正体。 沙良は、全身を流れる血流や電気信号の流れでさえも操っていたのだ。脳に流す情報の取捨選択、心拍数の強制加速、限界を超えた筋肉の出力の指示。それらを彼女は、随意的に行っていた。 無論そんなことをすれば体には相当の負担がかかる。それに魔法というものが体にどんな作用を及ぼすかも分からなかった。事実彼女の成長が逆行し始めたのも、この方法を使い出してからだった。 いつかその身を滅ぼす事は知っていた。それでも戦うために使い続けた。全ては、 「守りたいもんが、あったんやけどなぁ……」 「アタシにはそういうのは、わかんないね」 ガザベラは沙良を右腕で持ち上げる。ナイフを取り出し、その喉元に突きつけた。 「あんたはよくやった方さ。もう死にな」 沙良はナイフが振りかぶられたのを見て、静かに目を閉じた。 ――結局、うちにはなんもできんかった。せっかく泥沼の底から這い上がったと思ったのに、また同じ結果や。ごめんな、みんな。 心の中で、誰かに向けて謝罪し…… 「うわ、ちょっと、なんだいこいつ!?」 突然振り回された。薄く目を開くと、そこには…… 「ああもう、邪魔するんじゃないよっ!!」 「ましゅ、まろ……?」 ガザベラにまとわりつくましゅまろの姿があった。 ――なんでや。うち、あんたを動かす力もないんよ、もうなんもでけんよ? なのに、何であんた、うごいとるん? ましゅまろはしつこくガザベラにまとわりつく。どれだけ手ではねのけようとも、一向に引き下がる様子はない。 「ええい――しつこいんだよ!!」 苛立ったガザベラは沙良を手放し、己の手の平にナイフを突き立てる。そこから血が溢れ、鞭のようにしなり、ましゅまろに襲い掛かった。 「ましゅ――!!」 ずたずたに引き裂かれ、ごみのように放り棄てられる。 「ああ……」 もう何年も、共に歩んできた相棒だ。 元は贈り物だった。彼女が守れなかった子供達が生前、彼女にプレゼントしてくれた、手作りのぬいぐるみだった。それにちょっとした仕掛けを施して動かして見せた時の子供達の驚きと喜びの顔は、今でも忘れていない。 「あああ……」 共に絶望を這い上がってきた。くじけそうな時、逃げ出しそうな時、それを抱けばそれだけで勇気がわいてきた。かけがえのない、相棒だった。 ぱしゃん、と。落ちた。 「あああああああああああああ!!!!」 絶叫した。もはや自分の限界だとか力の限度だとかくだらないことは関係なかった。残った全ての力を右足に集める。血管が切れ神経は焼け筋繊維は弾け飛ぶ。知ったことかそんなこと、この怒りの前には関係ない! この女は、許されないことをした。それを黙って見過ごすことなどできるはずがない!! これまでのどの一撃よりも早く、重い一撃。 「くあぁっ!?」 ガザベラの肋骨が砕け、同時に沙良の足の骨にも罅が入った。 「いい加減に――しろぉ!!」 「がっ!!」 ガザベラの血の鞭が刃となり、沙良の四肢を貫いた。首を掴まれ、壁に押し付けられる。 「ちょっと油断したけどね、あんたはもう終わりさ……」 ガザベラは注意深く当たりを見回す。近くにましゅまろも、他のぬいぐるみもない。目の前の沙良はもはや水を操る力もないのは明白。首を締め上げる彼女の腕に抗する力はあまりに弱々しい。今度こそ、彼女の勝利はゆるぎないものとなった。 沙良はぎらついた瞳でガザベラを睨みつける。ガザベラはそれを鼻で笑うと、右手から生えた血のナイフを振り上げる。 息を荒げながら、首を締め付けられ、それでも懸命に酸素を取り込みながら、その弱々しい左手で右手を受け止めるつもりなのか、真っ赤に濡れた左手をガザベラに向けた。 それを滑稽だと嗤いながら、彼女は右手を振り下ろした。 シュッ! 空を裂く音が走り、沙良の背後の壁に血が散った。荒々しかった呼吸音はなくなり、廊下が静寂に包まれる。 ずる、と。ガザベラの手から力が抜け、沙良の体が水の中へとうつぶせに落ちた。ゆっくりと、血が水に流され広がっていく。 ちろちろと、どこからか水の流れる音だけが、響いていた。 どれくらいの間そうしていただろうか。 やがて、ずる……と、沙良がその身を起こした。 「う、う……ああぁぁぁっ!」 今度は仰向けに倒れる。 「間にあったん、か?」 沙良は大きく深呼吸した後、体を起こしてガザベラを見る。ガザベラは――ナイフを振りぬいた姿勢で事切れていた。額には小さな穴が開いている。見れば、自分を切り裂くはずだったナイフの刃が綺麗に消滅している。 今度はため息が漏れた。左手を持ち上げ、ガザベラに付けられた傷跡を見る。まさかこれが逆転の一手になるとは思わなかった。 ウォータジェットというものがある。ダイヤモンドさえも切断可能なこの技術を、沙良は己の肉体と血液で再現した。血流と筋肉の圧縮を利用して、爆発的な速度で血液を発射するのだが……その負担は、相当なものとなった。 「あかんわ、もうねむってしまいたい」 正直、まぶたが重い。むしろ今ここで眠ったらもう一度目を覚ましそうにないというのが彼女の本音だった。 それでももう、疲れたのだ。よくやったと思う。世界を滅ぼそうとするような連中相手に、よくもまあ限界を超えてやったもんだと。だからもう休んでも、いいんじゃないか。そう思う。 のだが。それを邪魔する存在があった。 「……うん? って、なんやましゅまろ。あんたほんとに、なんなんや?」 ましゅまろが、沙良に擦り寄ってきていた。もはや彼女にはましゅまろが動くだけの力を維持する余裕がない。だというのに、なぜましゅまろは動いているのか……正直、さっぱりだった。 「こういうんも、奇跡っていうんやろうか? ああもう、そんなに押したら……はいはい、起きろっていうんやろ?」 しつこくましゅまろに促され、沙良は立ち上がる。血も体力も足りていない。気力は今にも尽き果てそうだ。 それでも。 「守るもんがあるうちは、幸せや。幸せなら、どうせなら生きてみらんと、な……とと」 歩き出したその先に、奇妙な穴が開いていた。それは床だけを綺麗に切り取っており、地面は少しも削れていない。 上を見上げれば、どうやらそれは、屋上まで続いているらしい。どうやら、ナイフの刃を消したのはこれらしかった。もっとも沙良は、この穴が大翔の魔法によるものであることなど知る由もない。 ただ、その穴の向こう――屋上では、どうやら戦いが続いているらしいことだけは見て取れた。 「……生徒ががんばっとるんやし、な」 相棒と共に、歩き出す。 これまでと、同じように。 突然の事態に対しての美羽の判断は早かった。糸を水につなぎ、その熱エネルギーを瞬時に奪い去ったのだ。 水は瞬く間に凍りつき、ガーガーを氷壁の中に封じ込めた。 貴俊はすぐさま槍を構えると、次々に氷柱の標的に向かって槍を放つ、放つ、放つ!! 一度に三発の槍がガーガーを貫いた。 「ギィ、ア、ガアアアアア!!!!」 「うわ先輩なんか余計元気になってませんか、あれ!?」 「っ、美羽ちゃん下がれ!!」 大気をびりびりと震わせるガーガーの咆哮に美羽は気圧され、一瞬その思考が鈍った。その隙を狙ったかのように、ガーガーは氷を粉砕し、美羽に一瞬で迫った。 豪腕が、空を切る。悲鳴を上げる暇もない。 ドン!! だが駆けつけた貴俊がやりで豪腕を受け止める――が、それさえもものともせず、二人はまとめて吹き飛ばされた。 たったの一撃で全身の骨が軋む。それでも、貴俊は黒爪を床につきたて迎え撃とうと立ち上がり、 ゴッ!! 「かっ」 ガーガーの拳が、今度は腹にめり込む。いやな音が響き、先の倍以上の速度で床に叩きつけられた。床板は砕け、貴俊の体が沈む。 「せんぱ……きゃああっ!!」 さらに美羽に襲い掛かるガーガー。美羽は水の壁をうむが、太い腕はあっさりと壁を貫通し、美羽を掴む。ギリギリと肺と骨が締め上げられ、美羽は痛みに目を見開いた。 その悲鳴に、意識が飛びかけていた貴俊の瞳が焦点を結ぶ。全身を苛む痛みを歯を食いしばって押さえ込み、ふらふらと立ち上がる。 「ったく……ケダモノめ。それ以上その娘に傷をつけてみろよ、本気で消し飛ばすぞオラァ!!」 獣の表情を浮かべて槍を構えて突進する。一歩一歩床を踏み砕かんばかりの勢いで突き進む。ガーガーは貴俊に気付き、美羽を叩きつけるように床に放る。美羽は力なく叩きつけられるままだった。 ぶちり、と、貴俊の脳内で何かのリミッターが消し飛んだ。 「グルァッ!!」 ガーガーの腕が叩きつけられる。貴俊は黒爪を力の限り、その拳に向けて突き立てた。衝突の衝撃に、貴俊の肩が弾け飛びそうになる。だが、全身の骨を軋ませ、意識を揺さぶられ、それでも貴俊はその場に踏みとどまる。 「あのなぁ……俺はてめぇごときに負けてらんねぇんだよ……」 ちらりと、過去の光景が脳裏をよぎった。ああ、あの頃は楽だったなぁなどと思い出す。楽であり……世界の全てが苦痛であった。自分の存在が苦痛であった。そこに現れた――自分の対極。 それからは楽ではなかった。まさに苦難困難の連続だ。ただ、苦痛ではなかった。それらを乗り越える充実があった。 「そぉだよ、俺ぁこういう苦難困難ごときにゃ負けらんねぇんだよ。そうじゃなきゃ、俺をこんなところに引きずりだしてくれやがった野郎に申し訳がたたねぇんだよ愛が途切れちまうんだよ!!」 ドンッ! 重苦しい音が響く。貴俊の蹴りが、なんとガーガーをよろめかせたのだ。ガーガーはその瞳に戸惑いを浮かべながら、大きく跳び退る。 それをみて獰猛に牙を剥いた貴俊は、 「俺を倒していいのは一人だけだ、俺が負けるのは一人だけだ、俺が、負けらんねぇ戦いをするのは一人だけだ。だから――」 体を弓なりにしならせ、 「てめぇは予定調和のごとく俺に倒されてろ!!」 黒が走る。黒爪を射出するのではなく、投げた。まるで陸上競技のそれのように。 空を裂きガーガーへ向かうそれは、速くはあるが射出時の速度とは比べるまでも無く遅い。ガーガーは首をかしげ、目の前跳んできたそれを払おうと手を伸ばした。 瞬間。 ――バチィンッ!! 「ギャアアッ!?」 黒爪が、弾ける。眼前で射出された黒爪に反応できず、ガーガーの顔面に短い槍が突き立った。黒爪の後から駆けていた貴俊は、はじけて床をバウンドした、更に短くなった黒爪を掴み、ぶん回す。 重い手ごたえと共に、ガーガーが吹き飛んだ。貴俊は軽く舌打ちする。手元に残った黒爪は、あと二度しか射出できない。 「う、く……先、輩…………」 「おっと、あんまり無理しないほうがいいぜ。後は俺が――」 「意地でどうにかできることばかりじゃ、無いですよ」 貴俊は言葉を飲み込む。確かに、意地ではどうしようもない。先の射出にしてもそうだ。 射出は本来、一番下の槍についているボタンのオンオフで電流の切り替えて行う。それを自分で投擲し、中の回路の適当な部分を分離させて電流をカットするという荒業を、ほとんど意地になって行ったのだ。確かに相手の不意はつける。だが威力は半減するし狙いも付けにくいというかむしろあたったのが奇跡だったり、デメリットのほうが大きい。 「――どうやら、目に当たったようですね。相当苦しんでます」 「ん、あ、ああ。そうだな」 ガーガーは暴れていた。目に突き刺さった槍に苦しんでいる。さすがにあの痛みは無視できなかったということか。 それを見て思案顔をしていた美羽は、言った。 「先輩、突っ込んでください」 「……ぁ?」 「だから、突っ込んでください。全力で、あいつに」 美羽は暴れまわるガーガーを指差す。痛みに苦しむガーガーの暴れっぷりに、床や壁は紙細工のように破壊されていく。 美羽は言うのだ。あの破壊の渦の中にどうぞ飛び込んでこい、と。 「いや、あの……突っ込んで、どうしろと」 「いいから行って下さい。先輩なら分かりますから。――たぶん」 「……ああもう、分かった、分かったよ畜生! やっぱり君は大翔の妹だな!!」 最後に視線をそらしてなにやら不穏な事をつぶやいたような気がするが、とりあえずそれを振り切って走り出す。 美羽は大きく息を吸い―― 「ったく、アタシはこういうの嫌いなんだけどな……兄貴の悪いところがうつったかな」 全力で、生み出せるだけの大量の炎を生み出した。真っ赤な炎は天井に届かんばかりに燃え盛り、それが波のように、ガーガーへと向けてなだれ込む! 貴俊は背後から迫ってくる熱量に振り返り、 「は?」 という表情を浮かべて、飲み込まれた。 炎に気付いたガーガーは大きく口を開いて天を仰ぐ。 「グルゥァァァァァッ!!!!」 その口に、炎が飲み込まれていく。まるでガーガーを包み込むかの様に炎が殺到するが、逆にその全てがその口へと飲み込まれ…… 「ガァッ!?」 その喉に黒い棒が突き立った。飲み込まれかけていた炎が自由を取り戻し、舞い散る。炎が雪のように荒れ狂う世界の中心で、炎の中から現れた貴俊はところどころに火傷を負いながら、ガーガーの肩に足をかけ、その口に黒爪をつきたてていた。 「ったく、あの兄にしてこの妹ありたぁよく言ったもんだ。思わず愛を振りまきたくなるが……その前に、手前ェは極刑だ!!」 ズダン! 黒爪が射出され、びくりとガーガーが体を震わせた。もう一度。ズダン! 喉から入った二撃目は体を突き破り、背中から突き抜けた。どぉん、と重い音を立てて倒れるガーガー。一足先に飛びのいた貴俊は、苦笑しながら美羽を振り向いた。 「まさかいきなりあんな目に合わされるとは思わなかったよ……大翔といい君といい、なんつーか君んちの家系はとんでもないやり方が好きなのか?」 「さあ、そんなことは無いと思います……け、ど……」 ぽかん、と。だらしなく口を開いた美羽は、 「んー? どうした、美羽ちゃ、がっ!?」 ぐしゃり、と嫌な音を立てて、貴俊が横殴りに吹き飛び血を撒き散らしながら床に叩きつけられるのを、ただ見ていることしかできなかった。 ずりゅ、と血を滴らせ衝撃波でぐちゃぐちゃになった顔に虚ろな眼球でこちらを見ながら、ガーガーが歩み寄ってくる。 「な……なんで、生きて…………!?」 まるでホラー映画のような、それでも現実の光景に美羽は怯えた。まさか喉から背中までを貫かれて生きているような生き物がいるなどと誰が想像できようか。しかも二度もその衝撃を食らっているのだ。内臓にどれほどのダメージがあるのか。 それでも、その獣は立っている。そのぎらついた瞳が美羽の血に飢えていることは明白だった。 「い、い……いやぁぁぁ!!!!」 悲鳴を上げた瞬間、ガーガーが飛び掛ってきた。牙をむき出しにしてくらいついてきたその顔を、両手で押しとどめる。それでも、じりじりと血の滴る牙がじりじりと迫ってくる。 「ふあ、うあぁぁ……」 今にも泣き出しそうになるのを堪えて、何かできないかと辺りを見回して……。 「……………………」 ぐっと、覚悟を決める。ガーガーを押しとどめている両手の力を、不意に抜いた。 「ルァッ!?」 落ちてくる巨大な顔をかわして、その顔面に突き立った黒爪を掴む。ありったけの魔力で電気を生み出す。 「ウルウウァァァッ!?」 バチバチと青い火花が散り、ガーガーが顔を振り暴れるが、美羽はその手を離さない。しがみ付く。意地でもこの手は、離さない!! 顔ごと床に叩きつけても引きずっても離れないことを悟ったか、ガーガーは拳を作り、美羽へと向け―― 「先輩!!」 美羽は叫び『弦衰』で雷を帯びた黒爪から一切の『磁力』を吸収した。 生まれたのは、音ではなく衝撃。大気は撓み、歪んだ。 光の尾を引いて射出された黒爪は、ガーガーの上半身を粉々に吹き飛ばし、天井の一部を吹き飛ばしてどこかへと一瞬で飛んで行った。反動で美羽は壁まで吹き飛ばされる。 美羽は半分の長さになった、いまだぱちぱちと電気を帯びる黒爪を力なく放り投げる。呆然とぼろぼろになった体育館を見回して―― 「先輩、ありがとうございました」 仰向けに、顔だけこちらを向けた貴俊に、感謝の言葉を述べた。 「いぃえぇ、こっちこそ、生きていてくれてサンクスー。これで、大翔に殺されないで済むわ」 冗談めかした言葉だったが、貴俊は口の端から血をたらし、全身冗談どころではすまない感じに痛めつけられていた。特に叩きつけられたときのダメージは深刻だった。おそらく、骨の一本や二本は折れている。 「ギリギリでしたねー……」 「ああ……にしても、悪かったなぁ。後味悪い役目任せちまって。本当は、俺がやるつもりだったんだけど……」 「いいですよ。少し、兄貴の気持ちが、分かりましたから……」 守るためとはいえ。命を奪うことが、どういうことなのか。 かぶりを振り、ふらつきながらも立ち上がる。まだ射出の反動が全身に残っていた。 最後の射出。ガーガーの頭に突き立っていた、二本繋がったままの黒爪に美羽が電気を流し磁力を発生させ、貴俊が『分離』をかけることで射出の条件を整えたのだ。まさかあれほどの威力が出るとは美羽も思っていなかったが。黒爪、どこまで行ったのかと心配に思う。まさか人に命中などしなければいいのだが。 そんなことを心配しながら、まずはもっと心配しなければならないことを思い出す。 「さ、先輩、行きましょう。兄貴がちゃんとできてるか、採点してやらないといけません」 「……俺としちゃあ、もうここで待っときたいくらいの感じなんだけどなぁ」 などといいつつ立ち上がる貴俊。二人は体を引きずりながら、それでも前をむいて歩き出した。 二人して投げ飛ばされた先は、理科室だった。 陽菜はとにかくありとあらゆるものに擬態してどうにかダメージを回避しているが、エーデルはそうはいかない。加えて、いくらこの数ヶ月で多少鍛えたとはいえ元々が貧弱だったのだからその打たれ弱さも推して量れるというものだ。 「ぐっ……やれやれ、この僕がこんな肉弾戦を行う羽目になるとはね。まったく、美しくない話だ……!」 机に手をついて立ち上がる。周囲を見回すが陽菜の姿は無い。机の影に倒れているのかもしれないと考え、ドアの外に視線を向ける。今敵から注意を離すわけには行かない。ただでさえ追い込まれているのだ。これ以上、隙を作って付け入られては、本当に勝ち目は無い。 その巨体は、臆する必要などありはしないといわんばかりに、堂々と扉を開けて入ってきた。 「せぇいっ!!」 蛇口が撥ね飛び水が噴き出す。その流れを操り、加速し、研ぎ澄まし雨のように矢のようにバードックに叩きつける。だが、いくら傷つけてもその傷は次々に修復されていく。異常なまでの回復速度。 ぎり、と奥歯をかみ締めるエーデルの横を、机の上を飛び移りながら走り抜けていく影。 「ヒナ嬢、何を!?」 「えーちん、水止めて!!」 エーデルは言われたとおりに、魔法を解除する。突如現れた陽菜に驚きの表情を見せるバードック。その顔面に、陽菜は黒いビンを放り投げた。ガラスの割れる音がして、中の透明な液体がバードックに降りかかる。 「ぎゃあぁぁぁぁっ!?!?」 顔面を押さえもがき苦しむバードック。割れたビンのラベルにはこうかかれていた。H2SO4。それを見たエーデルは顔を引きつらせた。彼も一応生徒として授業を受けていたおかげで、多少の知識は身についていた。それがどんな危険な代物かも。 そして、更に陽菜がもうひとつのビンを取り出して見せた時、彼はくらりとよろめいた。 それを――陽菜は、躊躇いなくバードックの体に叩きつけ、全力で避難した。陽菜の背後から眩い白い炎が立ち上る。あまりの輝きに目が焼けそうになり、エーデルは思わずその場に身を伏せた。陽菜もその隣に滑り込んでくる。 「ぐあぁぁぁぁ!!!!」 その叫びを聞きながら、エーデルは呆れた口調で陽菜に言った。 「まったく、過激な事をするな。硫酸に加えて金属ナトリウム粉末。どちらも危険な代物だ」 「これでも、化学の成績は悪くないんだよ?」 的外れな受け答えに苦笑するエーデル。その顔を引き締める。 「しかし、それでは決定打にはならないな」 「うん、まあね。あくまで時間稼ぎだから」 硫酸は洗い流さなければ取れないし、ひたすらに再生し続けるバードックの体にそれなりの効果はあるだろう。そして、あの眩い光は目くらましになる。しばらく、まともには動けないはずだ。その間に、何か策を練らなくてはならない。 「問題なのは、肉体の強化よりも再生だよね」 「ああ。どれだけダメージを与えたところで回復されたのでは意味がないからな」 「うーん……それにしても、あの再生を打ち止めにできればいいんだけど……エネルギーの元を断つとか? でも、魔法のエネルギーの元なんてわかんないわけだし……」 と、そこでふとエーデルは思いついた。エネルギーの元を断つことはできないが、エネルギーそのものを……魔力を枯渇させることができれば? 無論、それは簡単な話ではない。見たところ、バードックはエーデルたちの世界の平均の数倍の魔力を抱えている。一般人でも、魔力を枯渇させるなんてこと滅多に起こらないのにそれを行うとなれば並大抵ではない。 だが……もしかしたら。そう思ってポケットを探る。取り出したのは、一族に伝わる宝石。ただし空っぽ。しかしこの場合はそれでいい。 「この中に彼の魔力の全てを封印できれば――問題は、二つで足りるのかということだな」 分の悪い賭けだ。軽く目算するが、正直足りそうにない。その場合はバードックの残りの魔力が枯渇するまで戦う羽目になる。だが、やるしかない。覚悟を決める。 「……んー、ちょっとまってえーちん、それを使えば、あの人を倒せるの?」 「可能性は低いが、賭けてみるしかないだろうね」 「それじゃあ、陽菜にいいアイデアがあるんだけど」 陽菜のアイデア。それを聞いたエーデルは目をむいた。本当にそんなことが可能なのか、いや、可能だとしてもそんなことをしたら陽菜の身の安全が保障できない。 「えーちん、迷っちゃだめ。それじゃあ陽菜が困るよ。せっかく、ヒロ君の助けになりに来たのに」 「む……。しかし君は、それでいいのかい? 君はその、ヒロト君のことを……」 「いいんだよ、それで。ヒロ君ね、陽菜のことを心配してくれてるんだけど、それってやっぱり、友達としてなんだよね。ユリアちゃんのそれとは違う。それはちょっとっていうかすっごい悲しいけど、でもやっぱり、嬉しいんだよね」 そういって、陽菜は笑う。綺麗な笑顔だった。エーデルは何も言わずに、彼女に肯いた。 「くっ! さすがに、僕も我慢の限界です! もはや容赦はない!!」 バードックが怒りの声を上げる。その声に立ち上がった二人は、目の前の光景に愕然とした。バードックの上半身が更に盛り上がり、両手を床に突き刺している。ばき、と床全体が嫌な音を立てた。じり、と後ずさる。 「おぉぉ!!」 バリバリバリィ!! 教室の床が、その上のもの全てと一緒にめくれ返った。コンクリート片や木片や螺子やよくわからない金属など、あらゆるものをばら撒きながら砕けた床が二人に襲い掛かる。狭い教室の中に逃げ道はない。 陽菜はくちびるを噛み、エーデルの前に出る。 「待ちたまえ!!」 エーデルの言葉を無視して、その身を鉄塊に擬態させエーデルの身を守らんと瓦礫の嵐に立ち向かう。エーデルは苦し紛れに水を呼び寄せて何とか身を守ろうと足掻きながら、二人は瓦礫に飲み込まれた。 荒い息をつきながら、バードックはその光景を見ていた。瓦礫が落ちる寸前、隙間から見えたのは陽菜がエーデルをかばって前に出る姿だった。 いくら鉄塊に擬態したとはいえ、瓦礫の中には同じ素材でできた鋭い破片も混じっていたし、何よりこれだけの質量が落ちてくれば鉄塊とはいえ無事ではすまない。おそらく二人は無事ではないだろうと、そう判断した。 しかし。 「貴様……ただでは、済まさんぞ……!」 「……何?」 瓦礫の中から声が聞こえたと思った瞬間。青い輝きが全てを吹き飛ばした。 「これは!?」 水を纏ったエーデル。その腕に抱かれていたのは、腹に鉄の棒を生やして、ぐったりと力のない陽菜。その体を一度強く抱きしめ、床にそっと寝かせた。死んでいる。呼吸をしていない。明らかに、死んでいた。 「我が友を奪ったその罪――この名において、断罪する! 家名解放、我が名はエーデル! 我が背負うは、高貴なる青!!」 青い輝きが、世界を覆う。それは光であり、同時に水であった。バードックは困惑する。触れていないのに、まるで触れているような感触の光。正体不明の現象に、どういう対応をしたらいいのか分からないのだ。 エーデルはそれを睥睨し、静かに告げる。愚かなる罪人に、死の宣告を。 「貫け、青き死神」 光が渦を巻く。今まで光だったそれはバードックの周りで水へと変じ、刃と槌と矛と槍と斧と昆と死となりて、バードックに無限に襲い掛かる。一瞬で無数の武器に囲まれたバードックは、その身を削られ、しかしそれでも傷はすぐにふさがる。 だがしかしエーデルも負けてはいない。台風の如き死の嵐は更に勢いを増す。 「負け……ぬ、ぐ……負けられないのですよ、僕は!!」 重い水を振り切って、渦から抜け出す。受ける傷など気にかからない。どうせ再生されてしまうのだから。だから、大丈夫。 そう考え、渦の中から水を滴らせながら上半身だけをどうにか抜け出す。ここまで抜け出せば、後は腕力で下半身を引きずり出せば…… 「だめ、それ、無理だから」 「え?」 死んだはずの人間の声が聞こえた。それに気をとられたのがまずかった。思わず、バードックの腕から力が抜ける。 ザバッ! 渦の一部が人の形を成し、バードックにしがみ付く。渦には一本の鉄の棒が突き刺さっていた。エーデルとバードックは息を呑む。 水が、陽菜を形作った。バードックが信じられない、という表情をうかべる。二人が時を止めた瞬間、陽菜はその手を――宝石を握り締めたその手を、いまだ再生途中の傷へと突き入れた。 「ぐああああっ!!!!」 「えーちん! やって!!」 「あ、ああ、分かった!!」 エーデルが手をかざした瞬間、宝石が光り輝き、バードックの体から凄まじい勢いで魔力が抜け出していく。エーデルの宝石に吸収されているのだ。 「ぐ、うあぁぁぁっ!? く、ぼ、僕の魔力を吸収するつもり、ですか……!? いい、考えですね、でも、この勢いじゃ、残念ですが少々容量ぶそく……うっ!?」 突然、魔力を吸い出す速度が加速した。いまだ渦巻く死の渦はバードックに致命傷を無数に刻み込む。今まではすぐにふさがっていた傷の治癒速度が低下し、傷の数は加速度的に増加する。 「い、一体、なにが……!?」 理解できないバードックは、視線を己の背中に向けて驚愕した。陽菜の体が、薄く、赤く輝いている。 陽菜の魔法は『擬態』。その通り、その存在そのものへとなりきる魔法。つまり、陽菜は己の体を宝石へと擬態させていた。 「は、はは、は……まさ、か、こんなこと、が…………」 エーデルの魔法によって付けられた傷はどれもが致命傷。それをふさぐ力がなくなっている今、魔力を吸い尽くされればバードックの命は終わる。 ここまでか。くやしいとは思わなかった。ただ、諦めが体を支配する。 刹那、死の一撃が、その心臓を貫き。 ついにその傷を防ぐ力を紡ぎだせず、バードックの体が力を失った。 それを見届けたエーデルは、渦から死を紡ぎだすのをやめた。水は光なってゆっくりと宙へ溶け、バードックと上に載った陽菜を静かに床の上に下ろした。 血の気の引いた顔の陽菜は、ゆっくりと立ち上がる。ふらり、とその体がよろめき、エラーズは駆け寄って陽菜を支えた。 「お、っとっと。うぅ……気持ち悪い。あたた、えーちん、ちょっとこの棒、抜いてくれない?」 「あ、ああ。それは構わないが……失礼だがヒナ嬢、君は、確かに死んでいたと思うのだが……」 ずりゅ、と嫌な音を立てて陽菜の腹から鉄の棒が抜き出された。あとが残るかなぁ、残ったらやだなぁ、などと考える。 エーデルは傷口を手でふさぎ、ガーゼを当てる。実験室であることが幸いした。 「ああ、うん。あれね、ちょっと陽菜の死体に『擬態』してみたの。うまくいったけど、とりあえず二度とやりたくないや。あれは」 それを聞いたエーデルはぞっとした。その行いがどれほど危険なものかを理解したからだ。 死体への擬態。それは可能ではあるが非常に危険な行いだった。何しろ『擬態』の魔法はそのものになりきるのだ。つまり、少し間違えればそのまま本当に死んでしまいかねない。もっとも、陽菜はそんなことに気付いてはいなかった。ただ、危険だということを本能が察知したのだ。 「あうう……でも本当に気分が悪いよ、なに、これ?」 「君は我々の世界の魔力に適応していないからね。拒絶反応のようなものだろう。おそらく、明日まではまともに動けないはずだ。とりあえず、このままここで休んで――」 「ちょっとちょっと、本気でいってるの? やだなぁ面白くない冗談だなぁ」 などと冗談っぽい口調だったが、目が本気だった。置いていったら後で酷い目にあわせるぞ、という目つきだった。エーデルはため息ひとつ、陽菜に肩を貸して歩き出す。 倒れたバードックを見下ろして、陽菜は少し考えるようなしぐさをしたあと、 「ごめんね、やっぱり陽菜たちも、負けられないんだ」 そう、つぶやいた。 美優の問いかけに答えようとしたエラーズが、ふと、宙にその視線を漂わせるような仕草をした。 「どうした、何かを感じたようだが?」 「ああ、いえ。しかし、俄かには信じ難いが……やはり、そうか」 一人で納得した様子のエラーズに、怪訝な顔をするレン。 「どうやら、貴女たちの仲間の勝ちのようですね。こちらの仲間はどうやら、ファイバーを残して全員敗北したようです」 その言葉に美優の表情が明るくなる。だがレンはやはり腑に落ちない。仲間達がやられたというのに、この目の前の男の余裕は何だというのか。 「貴様……何を企んでいる?」 「今更新しく何かを企んだりはしませんよ。ただ、そう。試合に負けて勝負に勝った、というところですか」 「どういう、意味ですか?」 とたん、不安げな顔をする美優。 「我々の目的が達成されるためには、勝敗は関係ないのですよ。この戦いそのものが、今回の計画の最後に必要だったので」 「なんだと……どういうことだ!?」 だがエラーズは深く語るつもりはないらしい。 「本当は、姫君の協力があればもっと事は簡単に進んでいたのですが……まあ、上での戦いの様子からして説得は失敗、ですね。当然ですけど。まあそれでもよかった。これで条件は揃った。これだけ世界のエネルギーが渦を巻いていれば、後は時間の問題でしょう」 窓の外を眺めながら、しみじみと語るエラーズ。強大な感知の力を持つ彼には、異世界のエネルギーが荒れ狂う様子が見えているのかもしれない レンは答えをはぐらかすエラーズに苛立ちを覚えた。だが美優は何かを探るような目つきでじっとエラーズを見ている。 その視線に気付いたのか、エラーズが首を傾げた。 「何か……ああ、あなたの質問の答えですか? それなら」 「いえ、わかったからいいです。レンさん、早くお兄ちゃんのところに行きましょう」 エラーズの言葉を遮り、美優は言い切った。美優はどこか、呆れた様子だ。 「……ミユ殿?」 「あの人、本当に酷い人です。あの人にとっては、今日の戦いの結果なんてどうでもいいんです。この世界が滅びようが続こうが、今日あの人たちの手段が手に入ろうが入るまいが、本当に、どうでもいいんですよ……」 「どうでも……?」 その言葉にエラーズは。 盛大なため息をつくしかなかった。 本当に……そんなところまであっさりと見破られるなんて、思ってもみなかったのだ。 「ええ、まったくその通り。私が見たいものは、どのような結果にしろもう見られることは確定しているようなものなのです」 「見たいもの? 貴様、一体何を見ようというのだ?」 「……全てを失った人が、それでも、ただひとつの何かのために生きて、何を掴むのか。そしてその果てに、その人は何を想い、死ぬのか」 レンも美優も首を傾げる。美優もエラーズが結果に頓着しないということを理解していただけで、その根底にあるものまで見破ったわけではない。 二人は困惑を顔に浮かべ、互いに顔を見合わせる。 「そうですね……ぶっちゃけて言えば、馬鹿はどういう生き方をしてどういう死に方をして今際の際に何を言うのかが知りたいんですよ」 「ず、随分とぶっちゃけましたね」 美優が多少引いていた。美優も大概歯に衣着せぬところがあるが、エラーズも相当のものらしい。 「それで? それを知って貴様はどうするというのだ?」 「どうも。ただ知りたいだけなのですよ、それを。ただの自己満足です」 「それが……そんなことが、この世界を滅ぼしてまで知りたいことか貴様!!」 「何に命を賭けるかなど人それぞれ。私はそれにこそ、命を賭ける意味を見出した、それだけのことです」 だっ!! 腰の高さに剣を抱えて駆け出そうとする、が、そのレンを美優の腕が止めた。美優はしっかりとエラーズを見据えている。 「ミユ殿!?」 「……待って下さい、少しだけ」 美優はじっとエラーズから目を離さない。その足元を、腰を、指先を囲むように、小さな刃のように研ぎ澄まされた鏡たちが舞っている。それはかすかな光を反射して、光の粒のように輝いていた。 深く息を吸って呼吸を整え、エラーズにたずねた。 「それじゃあ、もう私たちが戦う理由は、ないんじゃないですか?」 「それはそうですが、だからといってハイどうぞ、と言って通すわけにはいきません。これでも、エラーズには恩義がありますから」 「……どうしても、通してくれない、んですか?」 エラーズは無言で構えた。それ以上は言葉は不要とでも言うように。美優は小さくかぶりを振ると、小声でレンにたずねた。 「レンさん……あの、剣から光る斬撃を放つ魔法。あれ、その剣以外にもかけられますか?」 「ああ、それは可能だが……それがどうした?」 それに答えず、美優は行動を開始した。両手の指先に光を生み出し、閃光を放つ。じゃっ、と鋭い音を立て空が焼ける。が、文字通り光の速度のそれをエラーズは難なく避ける。さらにその背後から襲い掛かる氷の槍さえも視線を送ることさえせずに前に転がって避けた。 同時、美優を取り囲む無数の鏡片が空を切り破片どうし集まり、剣の形を成す。 金属がこすれあう音が廊下を埋め尽くし、鏡の剣が廊下の床に、壁に、天井に、無数に突き立った。 「むっ!?」 廊下は一瞬で剣で――鏡で埋め尽くされた。背後の出口にまで、鏡が壁のように張り付いていた。まるでミラーハウスのような光景に、レンはめまいを覚える。 もはやこの中のどこにも、誰にも逃げ場はない。その全てがレンの武器となり、美優の武器となる。レンはその鏡の剣を一振り手に取ると、 「なるほどな、借りるぞミユ殿。さあゆくぞエラーズ――『二剣六刃』!」 二本の剣が輝き、叩きつけられた剣からそれぞれ三本の光の刃が迸る!! 鏡の剣は折れたが、それでもまだ大量に武器はそこにある。 「数で押し切るつもりですか!?」 「ええ、そんなところです」 美優に肯き返したレンは、新しい鏡の剣を抜き、エラーズへと駆け出した。エラーズも床を蹴り駆け出す。二人の距離は瞬く間に縮まり、 がしゃあああんっ!!!! エラーズの足が床を踏み抜いた。否、床のように見えていたのは鏡であった。床にあいた穴を鏡で覆って隠していたのだと気付いた時には、エラーズの体は中ばまで落ちていた。 突然の事態に、レンでさえも目を剥く。が、その隙を逃さずに両手の剣で床を切り裂いた。 「『二剣四刃』!!」 迸る光刃は廊下を一直線に突き進み、突き立つ鏡剣を砕きながらエラーズへと突き進む。エラーズ腕一本で割れた床の端を掴むと、ブランコのように大きく体を揺らして跳躍して光刃をかわす。レンは両手の剣で着地したエラーズの眉間に切りかかる。 金属同士がぶつかり合う音に鏡の破砕音が混ざった。更に美優は、割れた鏡たちを操りその鋭い切っ先をエラーズに向ける。 「チッ!!」 蹴りを放ちレンを引き離し、風を起こす勢いで回転し鏡たちを次々に蹴り落としていく。レンは更に新たな鏡剣を振るい、八本の光刃を放つ。刃は嵐のように床、壁、天井と駆け回り、その牙をエラーズに向ける。 エラーズは最小限の動きでそれをかわし、転がっていた瓦礫を凄まじい速度でレンに投げつけた。 美優の魔法が闇を裂き、瓦礫を粉々に砕く。 「さすがに、やる……しかし、この程度では私は倒せませんよ!?」 そう、確かに鏡の先端は鋭くエラーズの体に襲い掛かるが、それでも小さな傷にしかならない。とてもではないが、ダメージと呼べるようなものではない。 さらには、あれだけあった大量の鏡剣も、すでにそのほとんどが攻撃の巻き添えとなって砕けていた。きらきらと空気中をダイヤモンドダストのように鏡の破片が舞う。 だが、それでいい。これで攻撃の『準備』は整った―― 「レンさん、これを、あなたの剣にしてください」 美優の言葉に呼応し、廊下を風が駆け巡り、砕かれて廊下にばら撒かれたまま維持されていた鏡の欠片が集められる。レンは剣を掲げ、その集められたかけら達に全力の魔力を注ぐ。 「ゆくぞエラーズ、私の全身全霊を懸けた一撃だ、受けてみろ!!」 「これは、まさか!?」 鏡の一つ一つが眩く輝く。レンの魔力が――切断した対象に斬撃を走らせる『斬像』が込められる。あまりにも大量の『剣』の群体。 エラーズはごくりと唾をのむ。確かに彼は魔法を感知することができる。『戦技』の防御能力とその力は、対魔法使い戦では絶大な力を発揮する。だがしかし、それもあくまで回避あるいは防御が可能である場合。もし彼の防御を突破するほどの威力を目の前の魔法が秘めていれば。 レンの剣が、振り下ろされた。 猛然と殺到する鏡の群に、エラーズは全身に力をみなぎらせ、体を硬化させる。果たしてこれで、どれほどレンの『斬像』に耐え切れるかは彼にもわからなかった。 次々に床に壁に鏡が突き立ち、それが一斉に光を放った。輝く刃が一斉に生まれ――一瞬で、消滅した。 「…………え? がはっ!?」 レンの一撃。背後からの、必殺の一撃。光を帯びた刃は、エラーズの右胸を貫いていた。 胸から零れ落ちる赤い雫に手をやる。そこから生える冷たい刃に視線を滑らせ、最後にレンを見る。深く鋭い、肉体の痛み。それを感じた瞬間、エラーズの口から苦痛がもれ、仮面の下から血が流れ出た。 「かふっ! これは、一体……?」 「私の『斬像』は確かに、斬ったものの表面に斬撃を走らせることができる。しかし斬撃の量と、威力・距離が反比例するのだ、残念な事に」 エラーズは美優に視線をやった。 「……数で押し切る、そう、言いました」 「確かに、その通りでしたね……はは、まったく、魔法使いには、勝つ自信は、あったのですが。相手が、戦士と策士では、この結果も致し方ない、ですね」 つまり、あれだけの大量の鏡に斬像を込めたところで、刃を発生させることは本来は不可能だったわけだ。しかし美優の膨大な魔力と一緒くたになったせいで、エラーズの鋭敏な感覚は麻痺を起こしてしまったのだ。 まるで、それが巨人の鉄槌のような強大な一撃であるかのように。 「つまり……あなたの狙いの攻撃は……この、一撃、というわけですか」 「ああ、私の全身全霊のフェイントだ。私の全てを費やさせてもらった」 事実、レンの息は荒い。およそ込められる全力がこもった業だったのだろう。エラーズは苦笑すると、 「くあっ!?」 「レンさん!?」 レンを蹴飛ばし、その剣を引き抜いた。よろめき、壁に背を預け、ずるずると座り込む。壁についた不気味な黒い跡が出血の激しさを物語っていた。仮面の奥から力のない苦笑が漏れる。だがそこには悲嘆の色はない。 そんなエラーズを油断なく見据えながら、レンは脇腹を押さえて立ち上がる。最後の最後で手痛い反撃を受けた。 「ふん……まったく、随分と、丈夫な事だな」 「まあ、そうでないと、生きていけない生き方でしたからね。私の負けです、行くといいでしょう。この世界でどういう結末を迎えるのか、あなた達のやりたいように、やってみるといい」 レンは立ち上がり、剣を回収して鞘に収める。 「当然だ」 言い捨てると、エラーズを振り向くことなく、歩き出す。美優の傍まで来ると、ひとつ礼をした。 「助かった、ミユ殿。あの作戦は見事だった」 「あ、はい。こちらこそレンさんがいたから……それで、レンさん、あの人……」 美優はエラーズが気にかかるようで、仕切りにそちらを気にしていたが、レンはぽんと頭を叩く。 「あのまま放っておけば死ぬだろうし、彼に死ぬつもりがなければ自力でどうにかするだろう。我々にできることは何もない」 「あの人は……それで、いいんでしょうか?」 「わからんさ。わからんが……それでも、我々に何かされるよりは、ずっといいだろう」 美優はもう一度エラーズを振り返った。廊下は暗く、ここからでは生きているのか死んでいるのかもよくわからない。 彼は、この世界に決定的な滅びをもちこんだ存在で、彼女にとっては紛う事なき敵だった。それは理解していてそうとしか彼女自身思えない。ただそれでも、美優は。 「生きていてほしいです。そうすればきっと、ここかここじゃないどこかで、自分の幸せのために何かを知ることができるから」 せめて悲しいことは少ないほうがいいな、と思った。 ごつり、耳の奥で重苦しい音が響いた瞬間視界がぐるりと回転し、更にみ胸の中央に衝撃。息がつまり、一瞬気が遠のく。 足が止まったところで両腕を拘束され、地面に仰向けに叩きつけられた。その上みぞおちを容赦なく踏みつける太い足。 「かっ……!?」 つんと鼻の奥に鉄の臭いが漂った。意識を保っていられるのが奇跡にさえ思える。いや、あるいは悪夢か。 ファイバーはゆっくりと圧力をかけてくる。そうして俺を痛めつけて、心を折るつもりなのだろう。俺は精一杯の虚勢でファイバーを睨みつけた。 そうすることしかできない俺を見下し、ファイバーは横へと視線を投げた。そこには確か、ユリアが倒れているはずだ。 一国の最終兵器と全てを貫く力をもってしても、この男に致命傷を与えることはできなかった。 「……こんなものか、つまらんな」 何がつまらないだこのやろう、こっちは最初から少しも面白くないんだよ。顔に唾を吐いて悪態をつきたい気分だったが、今の俺ではどうすることもできない。 「まあいい、お前達の役目も終わりだ。もはや俺達の計画は為される」 「……やっぱり、ユリアは計画には必要じゃなかったんだな?」 「そうだ。まあ戦いを起こす餌にはなったのだからどちらにせよ必要であったわけだが」 「一体何を言って……ぐ、あああぁぁっ!!!!」 腹にかかる圧力が更に増す。骨がぎしぎしと軋みを上げ、内臓が逃げ場のない体内から飛び出すほどに押し込められる。痛みに体が勝手に跳ね上がるが、四肢を押さえつける岩人形どもはピクリとも動かない。 「……気が狂ったか? この絶望の中何を笑う、小僧?」 その言葉で始めて気付く。そうか、俺は、笑ってるのか。 確かに意識を遣れば口は弓を描いているような気もする。瞳は三日月のように歪んでいる気がする。世界は白と黒を行き来して真っ赤な血の臭いに満ちている。ああなるほど、狂っているといえば狂っているんだろう。 お前にだけは言われたくないけどな。 「何が、気が狂った、だ……」 くらくらする。視界は白だか赤だか黒だかが混濁したように、あるいは切り替わっているのか、とにかくぐちゃぐちゃだ。死ぬのか? ああ俺死ぬのかもなぁ? ――嫌だなあそれは。だってほら、親父が。俺が。……ユリアが。 「俺も、お前も……違いなんかない。自分の、目的のため、に、他の全部を……それも、大切な、ものを……へいきでぎせいにして……っ!!」 やっている事の最低具合で言えば俺もファイバーもどっこいどっこいだ。ファイバーは姉のためにその他全てを犠牲にするといい、俺はユリアを助けるためにみんなを戦いに引きずり込んだ。いや、俺はそれでもみんなを守りたいだのなんだの言っている分更にたちが悪い。 大切なものを失うために、他全てを無意味と見なす観念。 大切なものを守るために、大切なものを危険に晒す矛盾。 そんなものを抱いて生きているような人間に今更狂ってるだのなんだの、お前はあれか、常識人か? ふざけろフルアーマーメルヘンオヤジめ。常識人ってのはあれだ、ほら、えーっと……。 「くそっ、今更だが俺の周りには一人も常識人がいねえ!!」 「どうやら本格的に終わったらしいな」 めりめりめりぃっ!! 圧力が一気に倍増した。骨が軋む音の中に明らかに折れたかひびが入ったかの音が混ざって聞こえ出す。喉の奥にいやな感触を感じたかと思えば咳が漏れ、口から溢れた血が泡を立てて口から零れていった。 まったくもって、本当に。俺たちはなんなんだろうか。 こいつは俺の親父を殺して、俺はこいつの悲願を止めようとしている。 なら俺が戦う理由はなんだろうか。ユリアは取り戻した、さっさと逃げてしまえばいい。まあその場合この世界が終わってしまうが……俺たちはただの学生なんだから、そんなことに首を突っ込むこと事態、間違っている。 ただいえることは――この戦いは必然だったという事。俺がどの世界にいて、ファイバーがどの世界でこんなことをしでかそうとしていても、俺はこいつを止めに来たに違いない。 理由は、簡単だ。 親父が笑っていたから。親父が最後に言い残してくれたから。 生きてほしい、と。 「生きて――やるさ」 そうだ、それだけだ。 俺がここにいる理由、俺が戦う理由、俺が、ユリアを、みんなを守る理由。 生きているからだ、生きていたいからだ。 俺はみんなと馬鹿みたいな普通の毎日を送っていたい。そのためにはこの世界にはなんとしても残っていてもらわないといけない。そのためには、みんなに生きていてもらわないといけない。 そのためには、みんなが、みんなの思うように生きていないといけない。 だから俺は、命を懸けてここまで来た。みんなもそうだ。 常識なんてクソ食らえ。そんなものは普通に生きるために必要な程度摂取できていればいいのだ。 適度な塩梅で狂っているからこそ、俺たちはこんなにも楽しく生きている。 そんな今を、貴様なんぞにくれてやるものかよ。 「う、ぐ、あああああああああああああっ!!」 ぐっと全身に力を込め、圧し掛かる力に必死に抗う。そんな俺をあざ笑う。今のお前に何ができる。腕は封じられて特殊魔法は放てず、通常魔法を編む集中力さえも奪われたこの状態でなにができる、と。 できるに決まってんだろうが、あほう。 俺は可能な限り嫌味な笑みを浮かべてやった。 「俺の魔法が手から出るなんて、いつそんな事言った?」 「ぬおっ!?」 両手を押さえつけていた岩人形を同時に貫き、ファイバーにも放つがそれはかわされ鎧の一部を抉り取るに終わった。だがこれで解放された。 「そうか、魔法を暴走させた時は、動作など必要とはしていなかったな!」 「望めば尻からでも出せるけどな!!」 追い討ちをかける。もはや隠す必要はない。モーションを経ずに畳み掛けるように次々に魔法を放つ。ファイバーは素早く動きながらも、その鎧は次々に削られていく。だがやはり、早撃ちでは直撃は狙えない。 だん! 音を立てて床を蹴り、ファイバーへ向かう。鎧の多くはすでになく、これならば俺の攻撃も直接打ち込むことができる! 「おおお!!」 「はああ!!」 交差する拳と拳。俺はもぐりこむように、やつは覆いかぶさるように、互いに拳を打ち込む。速さでは俺が、一撃ではファイバーがそれぞれ勝る。ファイバーの拳がこめかみを揺らす。俺は胸の中央に、螺旋に捻った掌底を突き入れる。がつんと音がして、視界がぶれる。次いで右の耳が熱を持つ。右の側頭部を強打されたのだと気付いた時には、反撃に敵の顎を突き上げていた。がちん、と手ごたえが返ってくる。ぎょろりとした視線と目が合い、その視界を埋め尽くすように拳が顔面めがけて降って来る。それを受け流し、受け流しきれずに膝が折れた。その体を襲った横からの衝撃。左の膝が脇腹に突き刺さっていた。その膝を脇で締め体を引き、相手の体が前に出たところに肘を叩き込む。 意識は朦朧としながら、ひたすらに勝つためだけに動く。体が動く。意志がひたすらに、体を動かす。 それでも、どれだけ意志を保っても限界はやってくる。体力の、肉体の限界が。 ふらりと足から力が抜け、後ろによろけてしまう。その隙にファイバーの太い腕に俺の首が締め上げられ、背後のフェンスに押し付けられた。そのまま壊れそうなほどに歪むフェンス。 「はぁ……はぁ……」 「どうやら、お前の力も、ここまでのようだな」 ファイバーが指を鉤爪のように曲げる。その太い指先がどれほどの力を持っているのか、それを味わった俺は、それがもはやナイフに匹敵する凶器であると理解する。 命の危機にありながらも、どこか気持ちは晴れやかだった。今まで頭の中を覆っていた色々な面倒なものが綺麗さっぱり、うせているようだ。 「やはり、あの男の息子か、久々に全力を出した。だか所詮、あの男が倒せなかったのにお前に俺が倒せるはずがなかったのだ」 へ。そうかい。 ふざけろ、クソヤロウ。 「「死ね」」 同時につぶやいた、瞬間。 「かぁぁぁっ!?」 ファイバーの四肢を四本の光が貫いた。首を締め上げる指先の力の緩みを感じ、俺はすぐさまファイバーの拘束を解く。倒れようとするその胸に肩を当て、地面を強く踏みしめ――ドンッ! 放たれた肘打ちは、ファイバーを吹き飛ばす。 その瞬間、限界を迎えた俺の体は倒れ――優しく、受け止められた。 「あぁ……さんきゅ、ユリア。危なかった」 「私こそ、あなたには助けられてばかりだから」 暖かで、柔らかくて……いい香り。すぐにでも眠ってしまいたい、ところだけど。あとちょっと、ひとふん張り。 俺はユリアに肩をあずけて、倒れるファイバーまで歩み寄った。ファイバーは意識はあったが、俺と同じような状態だった。俺は少しどうするか迷った後、魔法を放つ。 「ぐっ!!」 「ヒロトっ!?」 大丈夫、ちょっと四肢の神経の伝達を遮っただけだから。こいつくらいの根性があれば、貫かれたくらいでおとなしくしてるなんて楽観はできなかった。まったく、意志が強すぎるのも問題だ。 「俺達の、勝ちだな」 「……だが、もはや世界の礎の発生は止められんぞ。この世界はいずれにせよ、終わる」 それが、最後の問題だった。果たしてこの世界の崩壊を止めるにはどうすればいいのか……そも、世界の礎の詳細が分からなければどうしようもないのだ。なぜ世界の礎が生まれることで世界が終わるのか。それがわからない限りは。 「ファイバー、その、世界の礎って一体なんなんだ?」 「知らん」 あ、ちょっとぶち切れていいですか? 「なんといわれようと知らんものは知らんのだ。ただ、それが手に入れば新たな世界を創造できることは確かだ。ただ、それがどのようなものなのかまでは資料にはなかったのでな」 「なんだよ、資料なんてあるのか? ていうか、他の資料を探せばいいじゃねえか、どこだよ、その資料」 「姫君の王城の秘密書庫だが」 「えぇっ!? あ、あそこに忍び込んだんですか? いつの間に!?」 また随分と意外っつーかありえそうっつーか。ユリアも真剣にセキュリティについて考えてる場合じゃないって。 「どちらにせよもはや資料を探している時間などないぞ。具合から見て、もはや生まれるのは――」 その言葉の途中、ぐらり、と足元が揺れた。 その奇妙な……しかし不穏な揺れに、俺とユリアは顔を見合わせた、その時。 ドンッ!!!! 突き上げるような揺れが起こり、学園を、いや、街全体を揺らしだした。あまりの揺れに立つこともできず、俺達は寄り添うようにその場に座り込んだ。戦いによってガタが来ていた部分は崩壊し、フェンスもメリメリと音を立てて落ちていった。 一体、どれほど揺れていたのか。長かったような短かったような時間だった。 顔を上げた俺達は、街の光景を見て愕然とした。どれほどの揺れだったというのか、いくつかの家はつぶれ、あちこちで先よりも酷い火事が起きていた。 今の揺れは、地震、だったのか。けどそれはおかしい。この世界は表の世界とは隔絶されているから、地震なんて起こるはずがないのに。 しかも揺れはまだ小さく続いている。それだけじゃない、どこか遠くからも、同じような音が聞こえてくる。 一体どうなってるんだ、この世界は!? 「……! くるぞ、世界の礎が!」 ファイバーの興奮したような言葉と共に、周りの空気が密度を増したような圧迫感が生まれる。その圧迫感の中心は、自然と感じられた。 三人の視線が、ゆっくりと一箇所に集まる。そこに、何かが集まっているのを感じる。そして―― ――リィインッ!! 耳をつんざく音と共に、エメラルドグリーンの光の塊が姿を現した。世界の礎というにはあまりにも小さく、その大きさの割には途方もない存在感を持って、そこに現れた。 これが――世界の、礎。世界を、生み出す元。 呆然と見やる俺達。それがまずかった。 「おおおおおお!!」 「んなっ!?」 ファイバーが、己の四肢に岩人形を突き刺して動かしていた。馬っ……鹿か、こいつ!? そこまでしてでも……叶えたい、願いなんだろう。 だが、それを黙って見過ごすわけには―― ざりっ。 砂を踏む音。 なぜかその音は、やたらと、耳に響いて聞こえた。 「おや、ファイバー『君の魔法は、もう打ち止めだろう』」 ざわり、と空気が変わる。違和感だとかそういった生易しいものじゃない、これはもっと単純なもの。単純すぎて、すぐには理解が及ばないもの。 ファイバーがその言葉の通り、唐突に岩人形の動きを制御できなくなって、倒れた。 その人は。その、人は。呆然とする俺達の前に、ふらりといつもの調子で現れた。 乃愛、さん? え、いやちょっと、え? なんだ、これ。理解できない。理解が及ばない。理解が追いつかない。何かが明確に違うわけじゃない。何か明白な差があるわけじゃない。でも直感が、経験が、本能が、理性が、告げている。 この女は、乃愛さんじゃない。もっと何か俺の理解の及ばない、別の存在だ。 「ノア……アメスタシア…………!!」 驚いたことに、ファイバーの声には間違いなく恐怖が宿っていた。 いや、何を驚くことがある? そんなの当然だ。だって俺が――慣れ親しんでいるはずの俺でさえこの目の前の人に恐怖を感じているのに。 ああそうだ、乃愛さんが現れる直前のあの空気。あれは、恐怖だ。世界が彼女に恐れ戦いたのだ。 「ふぅん……これが、世界の礎か。もっと大仰なものかと思っていたのだが、まあこんなものか」 興味深そうに、あるいは興味なさそうに。彼女はじろじろと世界の礎を観察している。 そして、その手を世界の礎へと伸ばす。 「乃愛さん!」 俺の呼びかけに、ぴくり、とその肩が動いた。ゆっくりと彼女が振り向く。それは見慣れた顔、見慣れた表情。 ああ……やっぱりだ。何度でも言うぞ。 あんた、誰だ。 「ノアさん……? あなた、本当に、ノアさん、ですか?」 たずねる声は震えていた。俺はユリアの手をしっかりと握り締める。俺が震えるわけにはいかない。 何がなんだか良く分からないが、とにかく、今の乃愛さんはやばい。たぶんファイバーたち全員をまとめたのなんかより、ずっと危険だ。 「やあやあ、なんだか随分と怯えているな。だがその恐怖、その忌避は生命体として当然の反応だろう」 「どういう、事ですか?」 「ははっ、言って信じるとも思えないが、はてさて、黙っていては話が進まない。困ったものだ」 その仕草も喋り方も乃愛さんそのものだというのに。なんだ、この違和感は!? 「ノアさん……い、一体、どうなさったのですか!?」 「どうした、どうした……というと、こう答えるしかないだろうな。私は、君らの知る乃愛の中に存在するものだ」 「……どういう、ことですか?」 乃愛さんは……うん、とひとつ肯いたあと、こんな風に言った。 「簡単に言えば神のようなものだよ。それもとびきりたちの悪い、ね」 何を仰いましたか、この方は。 唖然とした。ユリアも同じだ。ファイバーは……顔は見えないがたぶん同じだろう。何か、とんでもないことを言いやがったぞこの人。 「え、ちょ、ちょっと待って下さい。それはなんですか、ギャグとかじゃなくて?」 「うん」 即答しやがったよ、この人。 「な、何を言ってるんですかあなたは!? 今がどういう状況かわかって」 「それを理解しているからそれほど焦っているのだろう、ヒロト君」 …………っ!! ああ、そうだ、その通りだ。今のこの状況の悪さはこの上なく理解してしまっている。それは俺にとっても誰にとっても、最低最悪の現実。つまりは―― 「私が君らの敵に回ったと、それが理解できれば十分じゃないか」 その言葉に、俺もユリアも……ファイバーでさえ、何も言うことができなくなった。 一体乃愛さんに何が起こったのかはわからない。だが、この三人ともが理解していたのだ。この人は今、この場における唯一の勝者であると。 「ええと……念のために聞きますけど。今、それを手に入れようとしてましたよね、それでどうするんですか?」 「私のなすべきを成すだけさ。乃愛には悪いが、私の存在はただそのためだけにあるようなものなのでね」 こういう語りは、乃愛さんのままなのに。 いまだに地面を揺らす小さな揺れは収まらない。ぐらぐらと足元は揺れている。それにあわせて、俺の思考も揺れいてる。 「ひとつ、教えてください……あなたは、この世界を、どうするつもりですか?」 「……ほう、感じ取ったか。君の想像通りだよ、この世界を、破壊する」 ぎり、と奥歯をかみ締めて、残りのありったけの力を振り絞り地を蹴った。一動作で乃愛さんへと詰め寄り、握った拳をそのみぞおちに―― 「よろしい、合格点だ」 ぐるんと視界が回転し、背中をしたたかに打ちつけた。気付けば元の位置へと飛ばされていた。何がどうなった? 「悪くない動きだ。いや、むしろ大洋さんを髣髴とさせたよ。これから先が楽しみだ……その『先』がなくなってしまうわけだが」 「あなたは……この世界を守るために、戦っていたのではないのですか!?」 ユリアの叫びに、乃愛さんは横を向いてばつの悪い顔をした。 「乃愛はそうさ。だが私は違う。私がでてきたのは今しがたなのだから」 「じゃあ乃愛さんでないなら、あんたは一体誰なんだ!!」 乃愛さんは……乃愛さんの姿をしたそれは少し考え、 「……乃愛は苅野乃愛という名前のほうを気に入っていたね。それじゃ、私のことはノア・アメスタシアと呼ぶといい。わかりにくいから。ノアなりアメスタシアなり、自由に呼んでくれて構わない」 そういうついでのごく自然な動作で、彼女の指が礎に触れた。余りにも自然すぎて止める暇もなかった。礎は触れたその手に吸い込まれ、同時に世界を揺らしていた振動も止まった。 ノアはうんうんとなにやら一人で納得した様子だ。俺達はもはや言葉もなかったが、それでは終われない男がいた。 「貴様あぁぁぁっ!!!!」 「ああ、ファイバーか。まだ生きていたんだっけ、そういえば」 つと、その瞳が細まる。ぞっとした。その目は命を見るものじゃない、物を見る目だ。敵意なんてさらさらない、ただ殺意のみの目。 「なあ、ファイバー。君は――」 「やめろ……」 何が起ころうとしているのか、漠然と理解した。彼女の魔法は知っている。俺は何度も経験している、何度もそれを使うところを見ている。 そしてそれを言っていたことも覚えている。最悪の『錯覚』の使い方。無数の条件が必要で、まず使うことはないといわれた、その力。 ――相手に、自分の死を『錯覚』させる。 「『今日この日この場所で、死ぬんだったな』」 「やめろおぉぉぉ!!!!」 目の前で、ファイバーがびくん、と痙攣した。同時に、ざり、と頭の中に何かが割り込んできたような音。耳の奥から耳の外へと逆流してきたような、生理的嫌悪感を伴う音。 ぞっとした。今のがなんなのか、乃愛さんの『錯覚』を受けた事のある俺はわかってしまった。今のは『錯覚』の対象となったときの感覚だ。だが先ほどのノアの魔法は俺達を対象にしていなかった。それでも、傍にいるというだけで影響を受けてしまった。 魔法の規模が、増大している。巨大に、強力になっている! 「待ちや、ノア。あんた、なにしとるん。なんであんたが、それ持っていきよるん」 満身創痍。まさしくその通りの姿で、沙良先生がましゅまろと共にそこに立っていた。いや、沙良先生だけじゃない。 美羽、美優、陽菜、レン、貴俊、エーデル。全員、そこにいる。誰もが信じられないといった顔で、ノアを見ている。話を、聞いていたのか……。 「なあノア。あんたなにもんや?」 「――まあ隠しても仕方のない話だ。君たちには話しておこうか。私という存在がどういうものなのか、なぜ、乃愛の中にいたのか、をね」 ノアはまるで講義でもするかのように、静かに語りだす。 「事の始まりは……何年前だっけ? まあどうでもいい、昔の話だ。あるとき、私が生まれた。私が生まれたのは世界ではない、その元となる空間だった。そして生まれた私は――その瞬間に、乃愛の中に入り込んだ」 「寄生虫みたいやな」 その言葉に、ノアは苦笑を浮かべる。 「なら私は益虫という事になるかな。なぜなら――生まれた世界を乃愛が生きていられた理由は、私という存在があってこそ、だからだ」 「どういう、意味、ですか?」 「乃愛を産んだモノは本当は追放なんて甘いことを考えてなんかいなかったのさ。奴らの当初の目的は、殺害だ。乃愛には無限の可能性があったからね、それを恐れたんだ。だが、殺さなかった……殺せなかった。私がいたからだ。私を内包した存在は死なない、何があろうとも絶対に、だ」 絶対、とは大きく出たものだ。いつもの乃愛さんならそんな言い方はしない。それこそ、絶対に。 世界の不条理や気まぐれをひとやまいくらといわんばかりに見て来た乃愛先生だからこそ、絶対などという言葉がどれだけあやふやなものかを知っていたんだろう。 人にとって唯一の絶対である死さえ、ファイバーの姉のようになってしまえば絶対でなくなる。 「絶対、とは大きく出ましたね……じゃあなんですか、溶鉱炉の中に沈んでも死なないとでも?」 「ははは、愉快な事を言うねヒロト君。そんなことになればいくら私でも死んでしまうによ。私はね、非常に悪運が強いのさ、それこそ自ら死を望まない限り、事故や戦いにおいて死ぬなんてしないし、宿主である乃愛にもさせない。私が操るのは魔法よりももっと深い、根源にあるものだ。その力をもってすれば世界ごと殺そうとしない限りは、私を殺すことは不可能だろうね」 世界ごと、という言葉に思わずこと切れたファイバーに視線を向けた。たった一人を殺すために必要な犠牲。世界ってのは意外と皮肉屋さんらしい。 「……で? その自称たちの悪い神様は、何だってこの世界をぶっ壊すんですかい?」 「それは……ふむ。言語化するのは少々面倒だな。加えて――」 ノアは自分の体をどこか不満げに見下ろした。はて、一体あの体のどこに不満があるというのだろうか。少なくともこちらの女性陣と比べたら立派に―― 「……おにいちゃん?」 急いで美優から視線を逸らす。 「ふーむ、ヒロト君、ちょっと頭を貸したまえ」 「えぇ?」 伸びてくる手に思わず体を引いてしまった。普段の彼女ならともかく、今の彼女に触れるのは本能の部分が拒絶を示す。その調子がいつものように見えるだけに、余計に違和感を感じてしまうのだ。 「何故逃げる?」 「本気で言ってますか、あなた」 「別に何も怖いことはしないさ」 「その言葉を聞いて安心できる人間がこの世にいるか!? てか、普段の乃愛さんはそういうことを言った時が一番危ないんだよ!!」 「やれやれ……乃愛にも困ったものだ。『ほら、足が動かないんだから無理しない』」 え? うおっ!? 引こうとした足がアロンアルファで接着されたかのように一瞬で床に固定された。思わず足元に視線がいって、その隙に―― 「ほら、これでいい」 そういって、ノアの手が優しく俺の頭の上に乗せられ…… ばちんっ!!!!
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